韓国国会、大統領弾劾訴追案は廃案に 尹氏は戒厳宣布を謝罪、「任期を与党に一任」と表明
【ソウル=桜井紀雄】韓国国会(定数300)は7日夕、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が3日夜に「非常戒厳」を宣布したことは違憲だとして、野党側が提出した弾劾訴追案を採決する本会議を開いた。保守系与党「国民の力」の議員のほぼ全員が退席したため投票者数が規定の200人に達せず、投票不成立で廃案となった。 【写真】ソウルの韓国国会前で、尹錫悦大統領の弾劾を求めるデモに参加する人たち ■11日にも訴追案再提出 これに先立つ7日午前、尹氏は国民向けの談話を発表し、戒厳宣布で国民を不安にさせたとして「心からおわびする」と謝罪した。自身の任期を含む今後の政局安定策を与党に「一任する」とも表明。国政運営は与党と政府が「責任を持って行う」と述べ、自身は政権運営の一線から退き、任期短縮も受け入れる考えを示唆した。弾劾訴追案の可決を回避させる狙いとみられる。 訴追案の廃案を受け、与党が早期の大統領退陣策をまとめられるかが焦点となる。政権運営は韓悳洙(ハン・ドクス)首相を中心に維持される見通しだが、外交や安全保障に責任を持つ大統領が一線から距離を置くことで、対日外交への影響も避けられない。野党側は11日にも訴追案を再提出する方針。 4日未明の戒厳解除後、尹氏が公式に立場を表明したのは初めて。尹氏は戒厳宣布は「大統領としての切迫感によるものだった」と釈明しつつ、「法的、政治的責任問題を回避しない」と強調。二度と戒厳宣布は行わないと約束した。 ■議場に戻ったのは数人 弾劾案は在籍議員の3分の2以上が賛成すれば可決される。野党側は192議席で、与党から8人以上の造反者が出るか注目されたが、議場に残った与党議員は当初1人だけ。禹元植(ウ・ウォンシク)議長は、与党議員に議場に戻るよう呼びかけたものの、戻ったのは数人にとどまった。 弾劾訴追案を巡っては、与党の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が6日、尹氏が戒厳宣布で韓氏ら主要政治家を逮捕しようとしたと批判し、尹氏の「職務停止が必要だ」と主張。韓氏に近い議員らが賛成するとみられていた。だが、尹氏が任期問題も一任すると表明したことで、野党主導の弾劾より与党が収拾策を主導する方が得策と判断したもようだ。 韓氏は7日、「大統領の正常な職務執行は不可能」で、「早期退陣は不可避だ」と強調した。捜査当局も内乱罪で告発された尹氏の捜査を進める方針で、政局の混迷は当面続くことになる。