尹錫悦大統領弾劾の行方…争点は「不法の重大性」韓国全土を混乱の渦に巻き込んだ“12.3戒厳令”【2024年重大ニュース】
争点は「不法の重大性」憲法裁判所での審理
軍の力で市民活動の統制を可能とする戒厳令が、戦争やそれに準ずる非常事態でもない平時に出されたことは明らかに「違法」と言えるだろう。韓国メディアなどでも、重大な法律違反に該当し尹大統領が「罷免」される可能性が高いとする意見が多い。憲法専門家の中では罷免される可能性が「100%」との意見もある。 一方、尹大統領は弾劾訴追案の採決を控えた12月12日に談話を発表し、「大統領の憲法上の決断であり、統治行為がどうして内乱になり得るのか」と戒厳令の正当性を改めて主張。かつて検事総長を務めた法律家である尹大統領は、弾劾や捜査に立ち向かう姿勢を示す。 主張が対立する中、専門家はこれから始まる憲法裁判所での審理の争点は「不法の重大性」だと説明する。高麗大学法学専門大学院のチャン・ヨンス教授に聞いた。 ――憲法裁判所が大統領の「罷免」を決める際、重要となるポイントは? 「弾劾訴追案の可決は政治的にできるが、最終的な罷免決定は憲法裁判所で法的基準に従って行うため罷免を判断する法的な要件が何なのかが最も重要になる。一つ目が『職務に関すること』で、二つ目にそれが『違憲・違法なこと』でなければならない。そしてもう一つの追加基準が『不法の重大性』だ。今回の場合においては職務に関することであり違憲・違法だと認められる。残った問題はただ一つ、これが大統領を罷免させるほどの重大な不法行為かどうかだ。尹大統領の『動員された戒厳軍の数も多くなく、(国会の)解除要求にも従った』という主張から、重大な不法行為ではないと解釈する余地もある。この部分を憲法裁判所が突き詰めることになるだろう。 また、内乱罪が認められれば、不法の重大さを問い詰める必要もない。ただ内乱罪が認められなければ、今回の戒厳令の重大性だけで判断することになるが、そのときは弾劾棄却の可能性もなくはないとみる」 ――現状では、刑事裁判より憲法裁判所の判決の方が早そうだが? 「つまり内乱罪の有無を憲法裁判所で判断しなければならない」 ――重大な不法、内乱罪に該当するかの判断基準は? 「内乱罪の構成要件が『大韓民国領土の全部または一部を掌握し国家権力を排除しようとした』というものだが、これには該当しないと見る。もう一つの要件が『国憲紊乱(ぶんらん)の目的』があった場合。つまり憲法や法律を無力化させたり、国家機関を無力化させたりする目的があったかどうか。今回、国会を無力化させようとしたかについて、野党側はその目的があったという主張で、尹大統領側は否定している。動員された戒厳軍がどんな指示を受けたのかなどを確認して結論が出るだろう」 戒厳軍への指示や当時の動きは、国会答弁、捜査機関の聴取などで徐々に明らかになっている。戒厳軍は国会議事堂やソウル近郊の中央選挙管理委員会の庁舎に投入された。ヘリコプターで国会敷地内に兵を送ったクァク・ジョングン特殊戦司令官は、国会国防委員会の答弁において、作戦中に大統領から電話があったことを明かし、「(戒厳令解除要求を決議するための)議決定足数がまだ満たされていないようだ。早くドアを壊して中にいる人員を引っ張り出せ」と指示されたと証言した。 さらに韓国メディアは、警察庁長官や国家情報院の高官が、尹大統領から主要政治家らの逮捕を指示されたと証言したと報じている。一方、国家情報院院長は大統領による逮捕指示を否定。尹大統領側のソク・ドンヒョン弁護士も「大統領は逮捕の『逮』の字も話したことがない」と真っ向から否定している。戒厳軍にまつわるより詳細な供述、証拠が罷免の判断に大きな影響を与えそうだ。 当の尹大統領だが、12月12日の談話以降沈黙を貫き、捜査はもちろん弾劾審判手続きにも協力していない。大統領側は弁護団の準備や、捜査機関の整理が行われていないことなどを理由にしているが、最大のライバルである野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が公職選挙法違反で一審で有罪判決を言い渡されていることから、刑が確定し被選挙権が剥奪され、大統領選挙に出られなくなるまで粘りたい考えがあるとの見方もある。 ただ、どんな理由があろうと国家の最高権力を振りかざし国民を混乱に陥れた大統領の責任を追及する声がやむことはない。事態の収束がいまだに見通せない中、大統領の今後の説明にも注目が集まる。 (FNNソウル支局 柳谷圭亮)
柳谷圭亮