10月から酒税改正 ビールの増分は1割前後か 新ジャンルからRTD(缶チューハイ)に流出する見方も
酒税法改正に伴い10月から狭義のビールが減税、新ジャンル(第3のビール)が増税される。9月には新ジャンルの仮需要が発生。10月からはビールの需要が伸びるとみられるが、税額が据え置かれるRTD(缶チューハイ)が有利との見方もある。 税額は今年から26年までの間に3段階で改定され、ビール・発泡酒・新ジャンルは26年10月に350mlあたり54・25円に一本化される。今回は、ビールが77円から70円に減税、新ジャンルが28円から37・8円に増税され、価格差が縮小する。 増税前の仮需要が見込まれたため9月にアサヒビールは「クリアアサヒ」を前年比約2割増産。9月前半の「同〈缶〉」販売数量は2割増で推移した。サッポロビールも約3割の増産。 当初は税額改定が消費者には浸透していなかったようだ。サッポロが実施したWebアンケート(7月30日~8月6日)では55%が改定を「知らない」と回答したが、メーカー各社が景品付きのケースや6缶パックを相次いで投入し、小売側もそれらの露出を高めたことから「認知も上がったようだ」(メーカー担当者)。 アサヒだけでなく、キリンビールの新ジャンルも9月上旬は出荷が5割増。 サントリービールの新ジャンルも1日~15日で約3割増。特に「金麦〈糖質75%オフ〉」は5割以上増だ。 昨年9月には消費増税前の仮需要が発生。それと比べる数字となることから伸び幅は小さいとの予測もあったが、「コロナ禍もあり家飲み需要が増えたこと、消費増税にコロナ禍が加わったことで価格意識がより強まったから前年を大きく上回った」と分析する。 減税となるビールについては期待と不安が入り混じる。 年初には、改定で2~3割増との予測が聞かれたが、コロナ禍で情勢は一気に不透明になった。業務用の売上げが低迷しており、また税額差は縮まったとはいえ30円以上残ることから「ビールの増分は1割前後」といった声もある。 さらに、ある大手飲食店チェーンでは「減税幅が小さいのでインパクトも小さい」といい、「コロナ禍もあり、飲み放題メニューが中心の店では大きな施策は打ちにくい」と打ち明ける。 一方でコアなビールユーザーはまだまだ多いことから家庭用を中心に「値下げで一定の増加はある」との見方も多く、改定で新たにビールを飲み始める人と、飲む量や頻度を増やす人の合計はビール飲用者全体の約7%(アサヒビール推計)と推計、ビール市場全体は約300万~400万箱ほど増えるとみる。 そこに向けてアサヒは「スーパードライ」6缶パックのデザインを刷新。10月2日からキャンペーンも実施。10月30日には「同工場できたてのうまさ実感パック」を投入、さらに新CMなどでの訴求にも力を入れる。 キリンは6日に「一番搾り 糖質ゼロ」を投入して健康意識の高まりに対応。またラガーの刷新やクラフトビールにも注力する。 サントリーは「ザ・プレミアム・モルツ(プレモル)」にとって好機ととらえており、ユーザーが一杯目に求める価値を踏まえて「一杯目の神泡」を店頭などで訴求。併せて「神泡サーバー2020」付き商品も投入する。また業務用でも飲用時品質を意識した取り組みを行う。 サッポロは、10~12月に3か月連続で人気アパレルブランドのBEAMSとコラボした景品付き商品を発売。飲食店で好評の「サッポロラガービール(赤星)」も10月20日に缶商品を数量限定で投入する。 ビール類増減税の一方でRTDは26年まで28円のまま据え置かれ、新ジャンルに対して店頭価格で1割ほどの価格優位性を持つとの見方が多い。価格意識が強まっている最中に、価格面での最大のライバルである新ジャンルが増税されればユーザーはRTDに流入する可能性もある。 あるメーカー筋は「利幅の薄いRTDよりもビールを売りたい」というが、「実際には10月以降の動向を見極めて施策を検討することになるだろう」と語っている。