火星ヘリコプター「インジェニュイティ」、最終飛行の調査完了–現在は気象観測所
米航空宇宙局(NASA)の火星ヘリコプター「Ingenuity」(インジェニュイティ)の最終飛行に関する調査を、運用チームのジェット推進研究所(JPL)が発表した。 Ingenuityは探査車(ローバー)「Perseverance」(パーサヴィアランス)とともに2020年6月に打ち上げられ、2021年2月から火星で飛行技術の実証実験を行っていた。2024年1月にはローターが破損したことで、飛行が不可能となった。 JPLによれば、Ingenuityが墜落したのは「特徴のない地形によってナビゲーションシステムが混乱したため」だという。「根本的な原因は、視覚的に平坦な地形と、局所的な急斜面の組み合わせによる航行性能の低下だった」とJPLでチーフパイロットを担当したHåvard Grip氏は述べている。 離陸後約20秒時点でナビゲーションシステムは追跡するのに十分な地表の特徴を見つけられなかったことが判明している。最も可能性が高いシナリオとしては、砂紋の斜面に激しく衝突し、急激な姿勢変化から高速で回転するローターのブレードに設計限界を超える負荷がかかり、4枚すべてのブレードで最も弱い部分が折れたという。 損傷したブレードはローターに振動を引き起こし、1枚のブレードの残りを根元から引きちぎり、過大な電力需要を発生させて通信不能に陥ったとJPLはみている。 今回の調査の結果を受け、特徴の少ない地形に対応できるようにナビゲーションシステムを改善することや異常発生時にテレメトリーをより堅牢に処理することなど、いくつかの推奨事項が導き出された。 飛べなくなったものの、Ingenuityは現在も火星で活動を続けている。航空電子機器やバッテリー、センサーはすべて機能しており、現在は火星の気象観測所として機能。フラッシュメモリーの容量によっては、最大20年間その役割を続ける可能性があるという。 技術実証機であるIngenuityは30日間で最大5回の実験飛行を行うことを前提に設計された。実際には、ほぼ3年間運用され、飛行回数は72回、飛行時間は2時間以上、飛行距離は計画の30倍以上となった。
塚本直樹