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安野モヨコ「1週間で40頁描いてと言われ…」 名作『ハッピー・マニア』秘話

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――8月に続編の1巻が発売されました。まずは率直な感想をお聞かせください。 その前に出した『鼻下長紳士回顧録』という単行本は、連載が不定期だったこと、そして装丁も凝ったこともあり、出版するまで本当に時間がかかっていたんです。それに比べると『後ハッピーマニア』は、サクサクと単行本ができまして。編集さんも私も、「え、もう出た? !」という感じでしたね。 ―― ’17年に一度、16年ぶりに雑誌に読み切りが掲載され、’19年10月号より連載がスタート。ファン的には続編が始まったのは本当に嬉しかったのですが、なぜ再び『ハッピー・マニア』を描かれようと思われたのでしょう?  ひとえに、雑誌『フィール・ヤング』への恩返しですね。’08年から、「オチビサン」という作品以外を休載し、しばらく休養をしていたんです、体調を崩しまして。その5年後くらいから少しずつ、再びストーリーマンガを描くことを試すようになり、『鼻下長紳士回顧録』という作品に取り掛かりました。しかし、正直なかなか原稿を仕上げることができない状況で。でもそんなイレギュラーな状態でも、『フィール・ヤング』の編集の方は、いつ描き上がるかもわからない原稿を待ってくれ、しかも上がったら掲載してくれるという、とても懐の深い対応をしてくださった。当時はもちろん今も、本当にありがたいと思っています。その気持ちが発端ですね。 ――久しぶりにシゲタカヨコ (『ハッピー・マニア』の主人公) の恋愛世界に戻られたわけですが、スムーズに筆は進んだのですか?  いや、最初はやっぱり手探りでした。シゲタさんももう40代なわけで、昔の、20代の頃のようなシゲタさんだと、ちょっとおかしな人すぎる。だからといって、落ち着きすぎてもつまらない。そのへんのバランスはすごく考えました。 ――40代のバランスとは?  シゲタさんは既婚者で、子供がいない。そして、仕事をちゃんとしてきていない人。今の彼女は、人としてのエネルギーが落ちた状態といいますか (笑) 。でも落ち着いたといっても、成長したというよりも、年をとって体力的に元気がなくなった、という状態ですね。とはいえ、頑張ってタカハシ (シゲタの夫) との生活を何年も続けてきているわけですから、人に合わせる努力はしてきただろうし、学びや成長がゼロなわけではない。ただ、成長して分別がついたシゲタさんは面白くないので、そこが難しいんですよね。 ――シゲタさんは45歳ですが、40代の女性の恋愛を描くのは、大きな挑戦でしたか?  そうですね…、答えになっているかはわかりませんが、私は『フィール・ヤング』って、20~30代の女性が、リアルを感じられる作品が掲載されているマンガ雑誌、と思っているんです。今描いている作家さんたちは私より全然若いですし、若い世代の恋愛、そして今の若い人たちの“恋愛恋愛していない感じ”を描いている作家さんもいる。そんな中で考えると、自分が恋愛モノをリアルタイムで描くのは最後かもな、と思いますし、『フィール・ヤング』で描くのも最後かな、と。なので、今まで受けた恩恵をすべて返したい、という気持ちで描いてます。 “連載”ではなかったから、作者も先を考えてなかった。 ――もとは、講談社で賞を受賞し、マンガ家になられたと伺っています。そんな安野さんが、別の出版社の雑誌で『ハッピー・マニア』を連載することになったのには、どんな経緯があったんですか?  確か21歳くらいのとき、当時私は岡崎 (京子) さんのところにメインでアシスタントに行っていたんですが、あるときたまたま (桜沢) エリカさんのところに貸し出され、仕事をしていたんです。そこに、『フィール・ヤング』でエリカさんの編集をしていた方がいらして、「あなたが安野さん? 今度うちで描きませんか?」と言われたのが最初です。 ――原稿を持ち込んだり、といったことは…?  ないですないです。どこかで私の作品を読んではくれていたみたいですが。それで描いたのが、『ハッピー・マニア』の初回。当時は1回掲載の読み切り予定でした。なので入稿して、“あぁよかった、終わった”とホッとしてたら、翌月、ある作家さんが原稿を落としてしまい、40ページ空いてしまったらしく、「1週間で40ページ描いて」と言われ (笑) 。新しい話を考える余裕はとてもないので、「この間の続きでもいいですか?」ってことで、第2回。そしてなぜか翌月も…となり、気がついたら走りだしていた感じです。 ――連載をお願いします、みたいなことではなく?  それを言われた記憶は一切ない (笑) 。だからストーリーとか結末とか、何も考えないで描いてたんですよ。作者自身も来月どうなるか、さっぱりわからないっていう。 ――それがあっての、あのストーリー展開だったんですね。 そう、めちゃくちゃな (笑) 。でも“これはこうなる”って着地点を決めて描いてしまうと、それを準備するようなエピソードを出してしまうので、わからないまま描いたほうが絶対にいいんですよね。 ――『ハッピー・マニア』という作品の持つ“どうしてそうなる? ! ”という展開は、それまでの恋愛マンガにはなかった種類の興奮を感じさせてくれ、そこに読者は夢中になりました。 主人公がいて、イケメンがいて、でもうまくいかないところに当て馬的な別のイケメンが出てきて…っていうのは、もういいよ、もういらないよって、私自身が思ってたんですよ (笑) 。自分も含めてですが、20~30代になると女性は、そういうお話に“きゃー”ってなれるほど、もうピュアではない、ということなのかもしれませんね。 ――年を重ねて、物語を作るということへの考えは、さらに変わられたりしましたか?  若い頃は、たぶんみんなそうだと思いますが、自分のことに精一杯すぎて、逆からの視点で見てみるとか、相手の立場で考えるとか、そんなこと思いも寄らなかった。今この年になって思うのは、確かに年齢を重ねたことで、別の視点で見る余裕は持てました。でも今度は、40歳を越えると、一口に40代の女性といっても、独身、既婚、子供がいる、離婚している、など、立場のバリエーションが豊富すぎるという別の事情が出てくる。ですから今は、描きながら、都度都度よく考えなければ、と思います。もはや“全員共感できるよね”というような物語はないのかもしれません。ただ、そのすべてに配慮していたら、ストーリーは作れない…。なかなか難しいところです。 あんの・もよこ 1971年生まれ、東京都出身。小学生からマンガを描き始め、高校1年生で初投稿、高3でデビュー。’95年より『ハッピー・マニア』 (祥伝社) 執筆開始、大ヒット。代表作に『働きマン』、第29回講談社漫画賞児童部門受賞作『シュガシュガルーン』 (共に講談社) 、『オチビサン』 (朝日新聞出版) 等。写真は、アトリエでのペン入れの様子。 雑誌『FEEL YOUNG』で連載中の『後ハッピーマニア』 (共に祥伝社) のコミックス第1巻が、好評発売中。また9/22まで東京・世田谷文学館にて、約30年間にわたる創作を振り返る回顧展「安野モヨコ展 ANNORMAL」を開催中。原画などを多数眺められる貴重なチャンス。その後、2021年にかけて仙台などを巡回予定。 ※『anan』2020年9月23日号より。写真・内山めぐみ インタビュー、文・河野友紀 (by anan編集部)

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