美大生のための伝説のアパート、DIYし放題で“住み継ぐ”
美術大学(美大)や美術系学科のキャンパスが集まる東京都町田市。多摩美術大学、東京造形大学、東京工科大学などに通う多くの美大生が生活しているこの町に、約15年にわたり歴代の美大生らが住み継いできたアパートがある。DIYし放題で原状回復も不要という一風変わったこの物件では、どんな暮らしが営まれているのだろうか?
芸術を学ぶ学生を支えたい。元コーヒーショップ店主の思い
町田駅からJR横浜線で4駅。相原駅から歩くこと5分、黄色い外壁が特徴的な大きなアパートが現れた。ここが美大生の受け継ぐ“伝説のアパート”「アップル&サムシングエルス」だ。
「アップル&サムシングエルス」は、全31部屋の4階建てアパート。1部屋の広さは33平米前後で、家賃は5万5000円~7万5000円。広さの割にリーズナブルな価格設定が魅力的だ。 現オーナーの青木さんは、近隣のコーヒー専門店「パペルブルグ」の元店主。「造形美の宿る作品が好き」と話す青木さんの親しみやすい人柄に惹かれ、多くの美大生が集った。学生の作品を店内に飾ることもあったという。
次第に、「もっと美大生のためになることをしたい」と考えるようになった青木さんは、賃貸物件の経営を思い立つ。そうして生まれたのが、ここ。建物全体のデザインは近隣5大学の学生によるコンペを実施し、上位3組のアイデアを採用し、今から15年前に建てられた。 この物件の最大の特徴は、「DIYし放題」。ほとんどの賃貸物件はDIY禁止か、DIY可でも原状回復が求められるなか、ここは入居者が自分の好きなように部屋を変えることができ、退去時に元に戻す必要もない。
入居待ちの一室。壁の絵や棚、小上がりスペースなどはかつての入居者である美大生が制作したもの。小上がりは床下収納にもなっていて、そのまま使える。
「DIYし放題・原状回復不要」というルールを設けた理由を、青木さんに聞いた。 「普通の賃貸の部屋より、気に入った空間で過ごしたほうが、感性が養われるでしょ。学生には、『イタズラじゃなきゃ何してもいいよ』と言っています。壁に絵を描いても、ビスを打ってもいい。事前に言ってくれれば、必要な道具を貸します。僕自身もDIYをするので、ペンキや電動のこぎり、材木が家にあるんです」