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酒場学習論【第8回】千葉「奈種彩」とリファラル採用

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日本の人事部

古今東西、人は酒場で育てられてきました。上司に悩み事を相談した場末の酒場、仕事を振り返りつつ一人で呑んだあのカウンター。あなたにもそんな記憶がありませんか。「酒場学習論」は、そんな酒場と人事に関する学びをつなぎます。 千葉駅から15分は歩くでしょうか。蓮池という粋なエリアに「奈種彩(なたねいろ)」はあります。初訪した日は、今ではめったにない三姉妹そろい踏みの日。店名の「奈種彩」とは、この店を切り盛りする女将の千種さんをはじめ、奈っちゃん、彩さんの三姉妹の名前から一文字ずつとったものです。 私は自他ともに認める燗酒好きで、燗酒を愛している酒場を巡るのが楽しみです。この燗酒好きの歴史は実はまだ浅く、ここ数年のことです。燗酒推しの酒場はまだマイナーな存在ですが、若い店主が多く、料理が旨い酒場が多いのが特徴です。 燗酒はさまざまな食事と合い、食中酒に最適の酒なのです。また、酒場同士の横のつながりが強いため、酒場から酒場への縁でネットワークが拡がります。良い酒場の大将や女将、そこで出逢う常連が次の酒場を教えてくれます。燗酒初心者の頃に出逢い、私の燗酒の世界を大きく拡げてくれた大切な一店が、この「奈種彩」です。 「奈種彩」との出逢いも、酒場つながりでした。赤羽「まるます家」で出会った荻窪「まる。」の女将、「まる。」で隣り合って呑んだ阿佐ヶ谷「SUGAR」時代の亜季さん、そして「SUGAR」のカウンターで意気投合した名も知らぬ方から教えていただいたのが「奈種彩」でした。 郷土の山形料理を中心に、えりすぐりの燗酒を楽しめる店。女将も常連も皆、素敵な方ばかり。特に女将のキャラクターと料理、そして燗酒の目利きは秀逸です。時折開催されるイベントも、わざわざ千葉まで足を運ぶかいがあるものばかり。一時は毎週に近いペースで通っていましたが、昨夏から千葉での仕事がなくなり、疎遠になってしまっています。 週末に大阪に行く、今は博多にいると連絡をすると、現地の知り合いの燗酒の店を教えてくださいました。大阪の「蔵朱」「べにくらげ」「ソラマメ食堂」、博多の「捏製作所」「ネッスルドルマ」「かんすけ」「博多空気椅子酒場輝」、いずれも「奈種彩」の千種さんの導きでした。 別の機会に書くつもりですが、「御酒燗帖」という燗酒推しの店が多く参画する企画があります。どの店主も本当に純米酒、燗酒が好きで、燗酒に合う料理が好きで、燗酒推しの酒蔵や酒販店が好きで、店で燗酒を楽しむ客が好きなのです。「奈種彩」はまさにそんな酒場です。燗酒の世界が本当に好きだから、自ら足を運んでみた上でその酒場と店主が良かったから……そんな思いがあるから、心を込めて人に紹介できるのでしょう。これは大切なことです。 採用のシーンでは、数年前から「リファラル採用」が脚光を浴びています。 「リファラル採用」とは、社員に知人を紹介してもらう採用手法ですが、従来の「縁故採用」とは一線を画しています。紹介する人ありきの「縁故採用」に対し、「リファラル採用」は戦略ありきでデザインします。紹介された人を適切な採用プロセスを経て公正に採否の判定をする点でも、縁故の強さによって採用が左右される「縁故採用」とは大きく異なります。「リファラル採用」のデザインは、採りたい人材像、社員のアプローチ方法、人事の支援事項、採用プロセス、候補人材のプール方法、紹介者への報酬、入社後のフォローまで多岐にわたります。 しかし、デザイン以上にリファラル採用の成否を決める重要な要素があります。それは紹介する社員自身が自社の理念や事業をよく理解し、自社を本当に愛しているのか、大切な知人に自社を本気で紹介したいと思っているのか、という点です。これがなければ、どんなに緻密にデザインされても、絶対にリファラル採用は成功しません。逆にこれが成り立てば、通常の採用ルートでは会えない優秀層が獲得できる、入社後の定着率が高まる、採用コストが大幅に削減できる、といったリファラル採用のメリットを享受できる可能性が高まります。 燗酒推しの酒場の大将や女将が、自店の大切なお客さまに他の酒場を紹介する行為と、企業におけるリファラル採用とはつながります。本当に自分自身が燗酒の世界が好きだからこそ、自分の言葉で魅力を語ることができるのです。話を聴くだけで、その酒場の魅力がありありとわかり、足を運んでみたいという思いに駆られます。そんな気持ちでリファラル採用の候補者にも、採用選考の場に足を運んでもらいたいものです。 口コミサイトや飲食店サイトの限界が見えてきており、ネットでは本当に行きたくなる個人店を探すことが難しくなってきています。そのため、酒場から酒場へと導いてくれる流れがますます貴重になります。これもリファラル採用が必要となってきた背景と重なります。人材紹介会社の限界が見えてきており、人選を依頼してもなかなか人材が上がってこない、もはや優秀な人材は人材紹介会社に頼らず転職活動をしている、という現実が少なからずあるからです。 千葉の「奈種彩」。今は自粛機運の中、テイクアウトで頑張っています。千葉に住んでいないのが悔しいくらい魅力的な写真がSNSには並びます。でも、やはりあのカウンターに座り、店全体の雰囲気を浴びながら燗酒と料理をいただきたいものです。早くあの場所に戻れる日が来ることを願っています。

田中 潤(株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長

たなか・じゅん/1985年一橋大学社会学部出身。日清製粉株式会社で人事・営業の業務を経験した後、株式会社ぐるなびで約10年間人事責任者を務める。2019年7月から現職。『日本の人事部』にはサイト開設当初から登場。『日本の人事部』が主催するイベント「HRカンファレンス」や「HRコンソーシアム」への登壇、情報誌『日本の人事部LEADERS』への寄稿などを行っている。経営学習研究所(MALL)理事、慶応義塾大学キャリアラボ登録キャリアアドバイザー、キャリアカウンセリング協会gcdf養成講座トレーナー、キャリアデザイン学会代議員。にっぽんお好み焼き協会監事。

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