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宮崎の口蹄疫から10年、忘れられぬ「あの惨状」 現場支援に当たった研究者の述懐

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47NEWS

 ▽未曽有の大災害  押さえ込めたと思っても別の地域に飛び火する繰り返し。「ウイルスという見えない敵があざ笑っているようだった」。8月の終息宣言までに、感染確認は県内11市町に拡大。県職員や獣医師、自衛隊や警察などのべ約16万人が殺処分や消毒といった防疫作業に従事した。  感染疑いなども含め殺処分した牛や豚などは約30万頭。「数字で語るのは簡単だが、体格の大きな動物を大量に処分する作業がどれほど大変か想像してほしい。手塩にかけて家畜を育ててきた農家の人たちにはかける言葉がなかった。作業に当たった人が精神的に疲弊しないかも不安だった」  地元の観光業への打撃や宮崎県産牛肉への風評被害など影響は多岐にわたり、国内の畜産史における未曽有の大災害として記憶に刻まれた。  ▽風化  あれから10年。山川さんは「恐れているのは記憶が風化し、伝染病への警戒感が次第に薄れてしまうことだ」と語る。国内での口蹄疫の感染はその後確認されていないが、19年には韓国で牛の感染が確認されるなど、周辺国での発生は近年も相次いでいる。現場の農家の人たちには、「動物の様子が少しでもおかしければ、ちゅうちょせず家畜保健衛生所に通報してほしい」と伝えたい。

 人にとっては無害でも、衣服や靴に付着したウイルスを人がまき散らして感染を拡大させる恐れはある。大切なのは、牛豚舎への立ち入り制限や施設の衛生管理といった日ごろの対策だ。  また、家畜の検査や農家への衛生指導に従事する公務員獣医師の慢性的な不足も課題だ。農水省によると、国内の獣医師数は18年時点で約3万9700人。犬や猫などペットの獣医師が約1万5800人で全体の約40%を占める。一方、家畜の伝染病予防や公衆衛生を担う公務員獣医師は8800人余りで全体の約22%だ。  国は、獣医師を志す学生への支援や女性獣医師の離職を減らす取り組みを急ぐ。若手を育てる立場の山川さんは「ペットを診る獣医師に比べ、地味でハードな公務員獣医師は確かに不人気。しかし、人や物の行き来の活発化でウイルスが国内に入り込む恐れが増しており、人材はますます必要だ」と訴える。  ▽アフリカ豚熱も  18年12月、日本ハムや富士フイルムと共同で口蹄疫の簡易診断キットを開発した。口や鼻の病変部を用い、約20分で簡易的な判定ができる。感染疑いの検体は、小平市の施設に運んで遺伝子検査する決まりになっており、判定に一定時間が必要だが、キットによって、簡易的ではあるが現場で判定が可能となった。迅速な初動対応につながることが期待され、昨年12月から各地の家畜保健衛生所が導入している。

 国内では、豚やイノシシに感染する豚熱(CSF)の確認が相次ぐほか、韓国や中国で確認され「日本に来るのも時間の問題」(農水省関係者)とも言われる致死率の高いアフリカ豚熱(ASF)も懸念されている、特にASFにはワクチンがなく、発生した場合に甚大な影響が懸念される。  空港や港での水際の監視や、万一ウイルスが持ち込まれてしまっても家畜に近づけない衛生管理など、基本的な対策はどの病気でも同じだ。「家畜は人間においしく食べてもらうために生きている。食べてもらえずに殺処分される家畜は少しでも減らしたい」。10年前の教訓を胸に、より高度な診断方法やワクチンの開発に打ち込んでいる。

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