「6年前のM&A」でアリババに罰金、企業分割もちらつかせる中国当局の真意
中国EC最大手アリババなど大手IT企業3社が12月14日、独占禁止法違反で50万元(約800元)の罰金を課せられたことが明らかになった。いずれも過去のM&Aについて当局に申請していなかった点が問題視された。 ITとつながる多くのサービスが、アリババ系とテンセント系に寡占されている。写真はシェア自転車で、青がアリババ系、オレンジがテンセント系の元モバイク、現在の美団(19年杭州にて、筆者撮影) 世界では巨大なユーザーベースとデータを基に富を独占するGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)への規制が強まっているが、中国をデジタル大国に押し上げた立役者であるメガIT企業に対しても、当局の姿勢が「容認」から「締め付け」に変化している。
罰金800万円のメッセージ性
中国市場監督管理総局は12月14日、アリババ、テンセント傘下でコンテンツ配信サービスを手掛ける「閲文集団」、物流大手順豊エクスプレス傘下でスマート宅配ロッカーを展開する「豊巣網絡技術」に対し、独占禁止法第48条、49条に基づき行政処分を行ったと発表した。 当局によると、アリババは2014年から17年にかけて大手小売企業「銀泰商業集団」の株式計7割超を取得した際に当局へ買収の申請を怠ったという。他の2社の処分もおおむね同じ内容だ。 50万元という罰金は3社の企業体力を考えると微々たる額だが、48条が規定する罰金の上限額でもある。そして、M&Aそのものは問題視されていない。08年に施行された独禁法は一定額以上のM&Aについて当局への申請を義務付けているが、これまでは厳格に運用されていなかったようだ。 つまり、当局は過去の違法行為を洗い出し、後出しでアリババに行政処分を発令した。「IT企業も独禁法の網から逃れられない」という強いメッセージを与えることが目的だと考えられる。
生殺与奪を握るプラットフォーマー
実は中国のIT事業の多くは現時点で、独禁法の網から漏れている。法が施行された08年、アリババやテンセントなどIT企業は今ほどの市場支配力を有していなかったため、独禁法はインターネットビジネス分野をカバーしなかったのだ。 だが、AIとビッグデータの時代に突入し、経済活動のプラットフォーム依存は強まる一方だ。フェイスブックは国境を越えてやりとりできるデジタル通貨「リブラ」構想で国家の金融政策すら脅かし、10億ユーザーを抱えるアリババの金融子会社アント・グループは、既存銀行の経営を圧迫している。 プラットフォーマー同士の競争が激しくなり、優越的地位を利用し取引先や消費者をグレーな手法で囲い込む行為も後を絶たない。 その代表的な行為が、取引先に自社のみとの取引を迫る「二者択一」だ。 例えば、テンセント傘下の美団(Meituan)とアリババ傘下の餓了麼(Ele.me)がシェアを奪い合うフードデリバリー業界。今年7月、浙江省温州市の飲食店20店舗は、餓了麼が独占取引契約を強要し、他のプラットフォームとの取引を禁じたと現地の市場監督管理局に訴えた。また広東省広州市の飲食業界団体は今年4月、美団に手数料の引き下げを申し入れた。業界団体によると、美団のフードデリバリープラットフォームの当時の利用手数料は26%にも上っていたという。 フードデリバリーは、コロナ禍の営業を制限された外食業界にとって命綱となったが、同時に、制裁与奪の権限も握られ、圧力をかけられることが増えた。 消費者も、知らないうちにプラットフォーマーに操られている。中国のECサイトは人工知能(AI)とビッグデータを利用して、同じ商品の価格を消費者ごとに変えることもできる。より安い価格を提示し新規顧客を獲得するためのやり方には、消費者からは常に不満が出ている。