希少生物狙う密猟者の摘発パトロールに記者が密着 世界自然遺産・沖縄「やんばるの森」
沖縄本島北部の世界自然遺産「やんばるの森」で28日深夜から29日未明、環境省や沖縄県警などによる密猟者摘発合同パトロールが行われた。国内最大級の亜熱帯照葉樹林が広がる「やんばる国立公園」には独自の進化を遂げた野生生物が多数生息しているが、密猟などの違法行為が深刻な問題になっている。森を覆う漆黒の闇夜。希少な固有種を密猟者から守るパトロールの現場を追った。 【写真】道路わきで見つかったオオシマゼミ。「生物識別者」が安全な場所まで移動させた ■密猟者が狙う希少種 「相手（密猟者）はどんな人間か分からない。凶器を持っているような者もいる中で、われわれが行くことになる」 28日午後10時、沖縄県国頭村（くにがみそん）。沖縄県警名護署の高島久典副署長が表情を引き締めた。 摘発合同パトロールは、事前に密猟者に察知されないよう、日時やルートを秘匿し抜き打ちで行われる。環境省や県、村森林組合などの職員も参加しているが、密猟者と鉢合わせになれば不測の事態も生じかねない。県警は制服警官とパトカーを要所に配置し、万全の態勢を整えたという。 近年、密猟者に特に狙われているのが、ヤンバルテナガコガネだ。昭和58年に新種として発見された日本最大のカブトムシで、国の天然記念物。生息範囲が狭く、個体数を急速に減らしているとされる。 種の保存法で捕獲や輸出入などが原則禁止されているが、県自然保護課の東盛舞子・生物多様性推進監は「今年も密猟疑い事例が確認された。卑劣な違法採集が後を絶たない」と嘆息する。 木が腐食して空いた穴で密猟された痕跡も確認された。関係者によると、やんばるの希少な動植物は海外に密輸され、高値で取引されているという。 ■相次ぐロードキル 集合場所から車で移動し、国頭村内の林道などで実施されたパトロールに、記者も同行した。 「ギャーギャー」あるいは「ヒューヒュー」と形容すべきか。的確な擬音は思い当たらないが、これまで耳にしたことのない独特の鳴き声が真っ暗な原生林に響いた。 「ケナガネズミでしょう」。沖縄の自然関連の本の編集に長年携わり、県の依頼で「生物識別者」としてパトロールに加わった村山望さん（64）＝宜野湾市＝がそう言って、木の上の方を見つめた。
