「恥ずべきほど成果がない」 ロシア国営メディアが異例の軍部批判を流しはじめた
──貧弱な装備に、頼りない補給網、そして終わりのみえない「特別軍事作戦」……。これまで積極的にプロパガンダを流していたロシアのTVで、戦況に対する不満が噴出している
ロシア国営チャンネルやプロパガンダを積極的に伝えていた特派員などから、従来であれば考えられなかったようなロシア軍への批判が聴かれるようになった。 ●動画:ロシア国営TVトークショーで、軍部を公然と批判 国営TV局『ロシア1』のトークショーでは、番組司会者のウラジミール・ソロヴィヨフ氏が兵站への不満をぶちまけた。「けれど、我々の兵に何かを届けるのは事実上不可能では。この不満は100回も述べてきた。」 氏は補給網に問題があると指摘し、前線の兵士に物資を届けるまでに長時間を要していると指摘している。 ウクライナ戦線で重要な役割を占めるドローンについても、生産数の少なさと輸送網の貧弱さが足かせになっていると氏は嘆く。「ドンバス地方に何かを持ち込みたいなら、(西部)リヴィウのウクライナ税関を通す方がまだ早い」との皮肉だ。 ソロヴィヨフ氏はこれまでプーチン政権のプロパガンダを積極的に担っており、国家批判の発言は異例だ。デイリー・メール紙は「プーチンの最も有名な操り人形のひとつ」であるソロヴィヨフ氏が軍部を「公然と批判しはじめた」と報じた。 同紙は続ける。「ウクライナ政府転覆をねらう『特別軍事作戦』に数日間を見込んでいたところ、突入から2ヶ月以上が経つ。プーチンの太鼓持ちたちでさえ、進展のなさに言い訳が尽きたようだ。」 ここ数日でウクライナは猛烈な反撃をみせており、5月9日にはハルキウ北部の2つの都市を配下に取り戻した。少なくともこの地方においては、ロシアとの国境から約16キロの地点まで押し返したことになる。ロシア軍としては、ウクライナ深部に取り残された部隊への補給線の寸断の可能性も現実味を帯びてきた。 ■ 「ロシア軍総動員でも効果薄い」 元大佐が見解 軍への怒りを爆発させるのは、ソロヴィヨフ氏だけではない。番組内にゲスト出演したロシア国家院(下院)のセミョーン・バグダサロフ議員は、司会を務めるソロヴィヨフ氏の主張に大いに同調し、貧弱な物資補給に怒りを示した。「国(ロシア)は、戦時中のアプローチに移行する必要がある。馬鹿げた行動はもう十分だ。」 番組出演者らはさらに、兵士たちが「去年の装備(もはや旧式となった装備)」で戦地に送り出されているとも述べ、近代化が遅れるロシア軍の状況を憂慮している。 英メトロ紙は、NATOの支援を受けるウクライナ側が対戦車ミサイルやドローンなどで成果を挙げている点と対比しながら、ロシア側の兵器の古さを指摘している。 ロシア有利と思われた兵力差に関しても、もはや顕著な利点にはならないとの主張が出てきた。元ロシア軍大佐のミハイル・キョーダリョノク氏は国営TVへの出演を通じ、ロシア軍には物資も兵力も不足していることから、兵を総動員しても戦況が大きく好転することはないだろうとの予測を語った。「我々には、(前線への投入に備える)予備隊がないのだ」と氏は述べている。 これまでプロパガンダを積極的に展開してきた戦争特派員のアレクサンドル・スラドコフ氏も、ロシア軍の糾弾に転じた。ウクライナ軍を「卑劣」と批判しながらも、ロシア側も「(敵勢の人数と)1対1の割合」で村の強襲に臨んでいる、と苛立ちを募らせる。数の優位をまったく生かせていないため、「ウクライナ軍を押し返すことはできない」と断言している。 この特派員はまた、日々押し寄せるウクライナ軍に対してロシア軍がかろうじて対処しているのみであり、「ルーティーンであるべき事柄をさも手柄のように語っている」とも述べる。ロシア軍の指揮官たちは「恥ずべきほど成果を出していない」と痛烈に批判した。 ■ 軍の需要に耐えられないロシア経済 戦地での局所的な問題だけでなく、ロシアには国家として長期化する戦線を支えるだけの経済力が残っていないのではないかとの指摘も国内から出はじめている。軍事評論家のコンスタンティン・シヴコフ氏はTV出演を通じ、「我々の現行の市場経済は、我々の軍の需要に耐えることができない」との分析を示した。 豪ニュースメディアの『news.com.au』はこうした一連の批判劇を動画で取り上げ、「ウラジミール・プーチンのくぐつメディアがついにプーチンに背を向けた」と報じる。「プーチンのプロパガンダ機関らが、ロシア軍の状況をおおっぴらに批判しはじめた」とし、軍部への不満が表面化していると指摘している。 動画視聴者からは、ロシア軍に対する皮肉が相次いだ。ある視聴者は「『去年の装備』をもたされ、去年の戦争に、去年の思考と信念をもった指導者によって送り出される。あなた方の華麗な失敗に祝福を。ウクライナに栄光あれ」とのコメントを残した。 侵攻の泥沼化で出口を見失うロシアに、国内外から批判が集中している。