優れたOPアニメーションは作品を格上げする 『ホリミヤ』石浜真史監督にみるその重要性
優れたOPやEDは、それだけで1つの傑作短編アニメとなる。毎週同じだとわかっていても、何度も繰り返し観てしまうという作品も多い。まだネットが今ほど浸透していない頃、好きなOPとEDのために早起きし、眠い目を擦りながら観た作品もあった。 【動画】TVアニメ「ホリミヤ」オープニング映像 出来のいいOPやEDからは、作品への導入以外にも、アニメーターや演出家の個性を味わうこともできる。今回は『ホリミヤ』を通して、石浜真史監督が過去に行ってきた表現と、今作の挑戦について考えていきたい。 原作は、原作者HIROが2007年から発表しているWEBコミック『堀さんと宮村くん』から端を発し、月刊Gファンタジーにて2011年から作画担当の萩原ダイスケが加わり『ホリミヤ』として連載されている。既刊15巻まで発売されており、1月からスタートしたテレビアニメだけでなく、2月5日より実写映画が公開、2月16日より実写ドラマも放送される。 見どころは、爽やかな恋愛を中心とした青春ドラマだろう。テレビアニメ版では活発な女の子の演技を得意とする戸松遥が主人公の堀京子を演じており、サバサバした女の子像が観ていて気持ちいい。外では派手な女子高生だが、家では地味で化粧もせず、幼い弟の面倒をみながら家事を行うなどの等身大な姿も、多くの視聴者が好感や親近感を持ちやすいキャラクター像ではないだろうか。 その相手役となる宮村伊澄は、学校では大人しく暗い印象がある男子だが、実はピアスの穴が9個空いていたり、タトゥーを入れているなど異なる一面を持つのも面白い。その意味では、今作はある種の「ヤンキーくんといい子ちゃん」の物語に近いものがあるだろう。ただし、ヤンキーくんである宮村が学校の中では根暗な人物だと思われており、ピアスやタトゥーを入れていること以外は、至って普通の好青年であることがギャップとして面白く、その他の作品と差別化されている。 今作の監督を務めるのは石浜真史だ。『新世界より』などのいくつもの作品で監督や演出を手がけてきた経歴を持つが、なんといってもOPやEDの映像美に称賛の声があがる。 特にシドの「乱舞のメロディ」が流れる『BLEACH』のOP13では、死神のバトルの様子をそれが見えない一般人の視点で描いたこともあり、オシャレなOPとして話題になった。またEDで白眉なのは監督も務めている『新世界より』のED1だ。幻想的な世界とともに花火の光が美しく打ち上がる様子が強い印象を残した。 石浜の作家性はいくつかあるが、その1つがスタッフの名前を映像にオシャレに組み込むことだろう。これは『ホリミヤ』でも発揮されており、石浜が絵コンテ・演出を手がけるOPでは映像にクレジットするだけでなく、映像の一環として名前が載るように工夫されている。それでも決してダサくならないことはもちろん、本作では監督である石浜の名前が小さく、すぐに切り替わってしまう様子からも、謙虚な性格が垣間見える。 そして何よりも大事なのは、キラキラとした輝くような映像美だ。過去に石浜が手がけたEDを例に挙げると『べるぜバブ』のED3では、キャラクターデザインを本編から大きく変え、女性キャラクターたちに光あふれるエフェクトを多く当てることで、朝に放送されていたアニメらしく、爽やかな印象を与えている。 その工夫は『ホリミヤ』でも活かされている。特に自ら絵コンテ・演出を手がけた1話では、多くの挑戦が見受けられる。中盤のシーンで堀と宮村がプライベートの姿を知り、その違和感を抱きながら学校で会話をするシーンでは、画面の両サイドを荷物が塞いでおり、絵が狭くなっている。その間で2人が会話をしているが、窓から差し込む光が特に印象的で、視聴者はその光景を覗き見るような感覚になるだろう。 後半で石川が堀に対して告白するシーンでは、カメラのピントがキャラクターたちからズレてしまいぼやけたり、カメラがぶれることで、告白されている堀の動揺を示している。その一方では光が強く輝くことで、そのシーンが重くなりすぎることなく、それでいてしっかりと印象に残るように演出されている。 この光が強めの映像美こそが、アニメ版の『ホリミヤ』の肝なのではないだろうか。近年は実写邦画の青春映画でもより強く採光し、画面全体がきらめくような作品が多い。そうすることで青春が持つキラキラとした印象を受けるためだ。本作からはその切実なまでの青春が強く感じられる。 一方で、漫画原作の作品らしく、写実にだけこだわらず、漫画的表現も多用されている。瞳が白や茶色一色になることでキャラクターの表情を豊かにしたり、背景が抽象的な記号で埋められていたり、あるいは画面に小さな花や星が咲くことで、登場人物の感情を伝えている。漫画的な表現と、映像ならではの光の表現で、原作の物語をより楽しく、切実に視聴者に伝えてくる。 原作であるコミックと比べると、3話まででもいくつかのエピソードが飛ばされており、物語構成を大胆にアレンジしている。だからといって原作を蔑ろにしているわけではない。むしろ、『ホリミヤ』という作品が持つ青春劇の魅力を、より強く感じることができるのではないだろうか。漫画からアニメに対する翻訳がうまく、そして石浜OPやEDの持つ魅力が味わえる。OP、EDという優れた短編から長編へ昇華され、光り輝く作品を目に焼き付けたい。
井中カエル