コロナ禍で人財マネジメントは何をどう変える?
※本コンテンツは、2020年11月18日に開催されたJBpress主催「第4回 ワークスタイル改革フォーラム」Day1の基調講演「コロナ禍で加速する人財マネジメント変革」の内容を採録したものです。 早稲田大学政治経済学術院・教授 大湾 秀雄氏 ■ 「年功制」脱却の加速でジョブ型雇用への対応が進む 新型コロナウイルス感染症の広がりで、仕事や生活に多大な影響を受けた方も多いと思います。外部環境が変化する中で、日本企業の人財マネジメントにも大きな変化が求められています。 まず初めに認識すべきは、コロナ禍という外的ショックはビジネスにおいては長期的にはプラスの面が大きいということです。 プラスの1つには、テクノロジーの利用の拡大があります。これはつまり、同じインプットの量に対するアウトプットの量または組み合わせが拡大することを意味します。具体的にはコミュニケーションの促進やコーディネーションを支援する情報通信技術が発達し、ソリューションが増えるということです。 2つ目として、働き方の選択肢の広がりもあります。リモートワークの拡大で移動時間が短縮できるほか、転勤回避や副業機会の増大にも期待できます。 何より、危機感の高まりが働き方改革を進める推進力になります。現在の厳しい状況は短期的な調整局面であると考え、長期的なメリットを享受する方法を模索するべきです。 こうした前提のもと、人事制度はどう変わっていくのでしょうか。また、どう変えるべきなのでしょうか。日本の人事制度について考える場合には幾つかの選択肢がありますが、ここでは伝統的な日本企業に残る年功制を中心に考えます。
年功制を経済学的に説明すると、若い時には生産性以下の賃金を受け取る代わりに、壮年期を過ぎてから生産性を上回る賃金を受け取る構造と言えます。この構造が、継続就業意欲の高まりや会社存続のための労使協力を促します。年功制を維持するために、雇用保障や内部昇進、遅い昇進という補完的制度群が形成されてきた側面もあります。 そしてこの年功制が、過去30年の経済環境の変化の過程で少しずつ有効性を失ってきました。 理由の第一は社員の高齢化です。技術の高度化が進み、多能化や柔軟な職務転換を支えた企業特殊的技能形成にかつてのような価値がなくなっていることも挙げられます。グローバル化によって、雇用保障の提供難や海外人事との不整合といった問題も起こっています。また、遅い昇進が女性管理職不足やリーダー不足の元凶になっているともいわれています。 賃金カーブのフラット化をはじめとする年功制脱却は既に進行していますが、コロナ禍以降は変化が加速すると考えられます。 その結果、ジョブ型雇用への対応が進むと考えられます。ジョブ型雇用とは、職の標準化や職務内容の明確化によって、人物ではなく職に値段をつける雇用のことです。ジョブ型への移行は、環境の変化が速くなる中、事業再編を円滑に進める上で有効です。多国籍企業においては、グローバルな人事制度を構築する上でも不可欠になっています。 ジョブ型雇用の広がりによって、正社員が負っていた転勤の義務や雇用保障の権利が弱まっていくと考えられます。一方で、企業が雇用を保証しない代償として、社員に対して技術や能力を身につける教育訓練の機会を提供するエンプロイアビリティ保障が求められるようになるなどの変化も予想されます。