<キャンパる>箱根駅伝を支える裏方の学生たち 大会主催者「関東学連」とは
毎年数々のドラマが生まれる箱根駅伝。その主催者は新聞社でもテレビ局でもなく、「一般社団法人関東学生陸上競技連盟」(通称・関東学連)だ。学生が中心となって大会準備と運営を行っていることは、あまり知られていないのではないだろうか。この団体に集う学生はどんな思いを持ち、どんな活動をしているのか取材した。【明治大学・山本遼(キャンパる編集部)】 ◇39人の学生実務部隊 東京・国立競技場に程近い場所にある関東学連の事務所。中から笑い声が聞こえてくる。ドアを開けると、「学連幹事」と呼ばれる関東学連に所属する学生たちが、和やかな雰囲気で箱根駅伝の準備作業をしていた。 関東学連は、日本学生陸上競技連合傘下の八つの地区連盟の一つで、関東地方と山梨県の計8都県の大学など161校が加盟している。関東地区で行われる大学生の陸上競技大会の運営をしており、主催する学生競技大会は年間10大会を数えるが、そのうち最大の規模を誇るのが箱根駅伝だ。 所属する学連幹事の学生は男女合計39人。いずれも加盟校の学生で、平日はこの事務所に集まり、プログラムの作成や大会エントリーの受け付け、関係各所との連絡調整など、ありとあらゆる準備作業を行っている。幹事長で東海大3年の次呂久(じろく)直子さん(20)によると、「皆、箱根駅伝が大好きな人ばかり」とのことだ。 学連幹事は、関東学連加盟校の学生なら誰でも志願することができ、毎年、募集している。志願者多数の場合は選考が行われる。晴れて選任された学生は、審判・報道・印刷・記録・登録・物品・会計のいずれかの業務を任される。どれも大会を支える大事な裏方業務だ。 39人のうち、女子は31人と圧倒的に女子が多い。次呂久さんは「箱根駅伝が好きでも、所属大学の駅伝チームはマネジャーでも男子しか採用していないところが多いので、関東学連入りを目指す人が多いのではないか」と話す。 ◇毎年のように発生する問題に対処 中高で6年間、陸上経験がある次呂久さんが関東学連入りを志願した理由は「大学でも大好きな陸上競技に関わり続けたかった。また大会運営という関わり方に興味を持ったから」だという。激務が多い中で、「日々が学びの連続だ」という。 副幹事長で順天堂大2年の新井瑞己さん(20)も小学校から高校まで陸上経験があり「陸上競技が大好きで、大学でも関わりたいと思い、ネットや新聞でこの団体を知って志望した」そうだ。運営に携わる中で「大会一つ一つを成し遂げた時や、先生方や選手から感謝の言葉をもらった時、特にやりがいを感じる」という。 2024年で100回の節目を迎えた箱根駅伝。100年の歴史を重ねても、毎年のようにさまざまな問題が発生する。今年10月に行われた予選会では、季節外れの高温の中で競技が行われ、途中棄権する選手や、フィニッシュ後に倒れる選手が続出した。新井さんは「今後に向け、熱中症対策に関する部分にも注力していかなければならない」と話す。 ◇「競技者ファースト」を貫いて 年間を通して開催される各大会の運営では、大学や選手のほか、協賛企業や報道機関、警察に至るまで、関係先は多岐にわたる。その中でそれぞれの立場で要望や利害がぶつかり合うこともしばしばだそうだ。 「活動の中で一番大変だが、やりがいを感じるのはそういう時」だと次呂久さんは言う。学連幹事が最も大切にしているのは「競技者のことを第一に考えること」。関係者それぞれの意見に耳を傾けて打開策を模索するが、「競技者の要望を優先的に考えつつ落としどころを見つけることを大事にしている」と次呂久さんは語った。 今年4月に関東学連は法人化した。日本有数のスポーツイベントとして定着した箱根駅伝の歴史を未来につなぐため、主催者として組織運営の透明性や健全性を高めるのが主な狙いだ。ただ、箱根駅伝を含む大会運営は、従来通り学生が主体で行われている。次呂久さんは「学生が学生のために大会を運営する、それが今まで受け継がれてきた大事なところ。そこは変えずにいきたい」と強調した。 ◇支える側の努力も伝わるといい 次呂久さんには、学連幹事として運営に関わって初めて分かったことがある。それは関東学連以外にも、加盟校の多くの選手たちが大会を裏で支えているということだ。 箱根駅伝だけでなく、競技大会は各大学の学生補助員や学生審判による運営で成り立っている。箱根では、出場がかなわなかった大学も運営の補助に当たる。出場した大学でも、他種目の選手が同じように協力して運営を支えている。 「表に出ている選手だけじゃない、裏で支えてくれている選手たちがたくさんいることは運営にいなければ分からなかった。箱根駅伝のレースは全国的に注目されるが、見えている部分だけじゃなく、いろんな所でいろんな人が支えて成り立っているところも伝わればいいなと思う」と気持ちを込めて話した。 101回目を迎える箱根駅伝に、どんな思いを抱いているのかについても尋ねてみた。次呂久さんは「新たな100年につながる第1回として捉えている。今後も愛され続ける大会でありますように」と話した。新井さんは「今までの歴史を大事にしつつ、選手が全力を出し切れるよう、変えるところは変え、変えないところは継続して今後も大事にしていきたい」と語った。