躍動する大洋の若き鯨たち/週べ回顧1972年編
一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。
冗談がうまくなった? 松原誠
今回は『1972年4月10日号』。定価は120円。 オープン戦真っ只中、大洋ホエールズの若鯨(?)たちの評判がいい。 まずはプロ3年目の左腕・間柴茂有。当時、登板日の雨が多く、雨男、さらにはケロヨン(知ってますか?)とも呼ばれていた男だ。 間柴は3月20日の南海戦で先発。この日は雨ではなかったが、センターからホームへ瞬間最大風速23メートルの風が吹き込み、打球がすべて戻され、ポテンヒットが続出。さらにはモーションを取った投手が風に押され、バランスを崩すシーンもあった。 しかしながら、この悪条件の中、間柴はすいすいと快投。9回に落球で1点を失ったのみの完投勝利。チームメートも「風を使ったわけじゃないだろうが、いいピッチングだった。雨男どころか風男になったな」とひやかしつつ褒めていた。 冴えたのは右打者インサイドへの速球と大きなカーブだ。間柴は入団年、巨人・王貞治をこのカーブで連続三振に斬って取り名を挙げたが、その後は鳴かず飛ばずで、いまだプロでは未勝利だった。 ほかドラフト1位新人・竹内広明も10イニング連続無失点と好調。 「じっくり育てればエースになれる素質は十分にある」 と秋山登コーチも上機嫌だった。 打線では松原誠が、青田昇コーチのマンツーマンの指導で覚醒しつつあった。その指導は主に以下のようなものだったという。 「バッティングは腰を中心に打つ。遠心力ではない」 「最初から力が入り過ぎだ。自動車だってロー、セカンド、トップとだんだんスピードが出てくるだろ」 「右ヒジを伸ばしてバックスイングに入ったらどうなる。ボクシングも同じじゃないか。手をいっぱい伸ばして打つより、腕をすぼめてはずみをつけて打ったほうが爆発力は数倍やろ。同じ理屈や」 16日の近鉄戦(日生)では左腕の鈴木啓示から特大ホームランを2発。いずれも低めの球だった。 それでも「僕のウィークポイントは低めですよ」と淡々という松原に、青田コーチは「あいつも冗談がうまくなったわ」と大笑いしていた。 では、またあした。 <次回に続く> 写真=BBM
週刊ベースボール