’70年代2スト技術の集大成 1971年スズキ『GT750』【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.11】
技術面で面白いと思ったのがフロントブレーキです。GT750のデビューは1971年9月だから1968年の東京モーターショーで発表された前輪にディスクブレーキがセットされたCB750フォアのプロトタイプの存在を知っており、正式デビュー直後の市販車を入手して徹底分析したことでしょう。エポックかつ人気モデルでは、どのライバルメーカーも放置するはずがないですから。 なのにあえてスズキはGT750にドラム式を採用しました。ドラム式と言っても一般的な片面ではなく量産市販車初の両面ツーリーディング式でした。ロードレース界で多くの実績を残してきたフォンタナ製ブレーキシステムを参考にして創り上げたと言われています。 過去にさまざまなフロントドラムブレーキのバイクに乗ってきましたが、GT750の効き味はNo.1だったと思います。特に雨の日の使いやすさ、安心感が大きかったのです。ただし、高度な整備技術が要求されます。 そして3気筒なのに4本マフラーであったこと。人気の4気筒CB750フォアの4本マフラーに似せた!と捉えることもできますが、左右対称マフラーとすることで落ち着きのあるリアビューにできること。そして左右に分かれた中央部分はやや細身とすることで十分なバンク角確保に貢献しています。 エキパイ部分に連結したECTS(エキゾースト・カプラー・チューブ・システム)は低速域のトルクの厚みをアップします。高回転高出力型よりもトルク型の方が万人に扱いやすく、結果的にどんなシチュエーションでも快適かつスポーティな走りを実現しやすいという手堅い手法をスズキは採用したのです。 GT750デビューと並行してスズキはそれまでのT250、T350、T500のパラレルツインシリーズのネーミングを1971年1月にGT500、2月にGT250、GT350へ名称変更し、1972年1月に3気筒シリーズのGT380、同年4月にGT550をラインアップしました。 1973年のオイルショック後に厳しくなった排気ガス規制を受けて2ストロークバイクの立ち位置が厳しくなっていく中でも、スズキはGTファミリーを充実させつつGT750は熟成を重ねましたが1976年に販売を終了し、4ストローク4気筒のGS750へバトンタッチしました。 ホンダに続いてカワサキが4気筒の750をリリース。中型バイクも4ストローク・マルチシリンダーバイクのニーズが1970年代の日本国内で高まる中、GT750は英国ではKettle、豪州ではWater Bottle、北米ではWater Buffaloと呼ばれながら日本以上に世界の記憶に残るナナハンとなりました。 しっとりした乗り味ながら俊敏なフットワークと細部にわたる高い質感と耐久性を誇る、GT750はまさにスズキの良心を感じさせる大型2ストロークエンジンの秀作でした。 ※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
●文/カタログ画像提供:柏秀樹