’70年代2スト技術の集大成 1971年スズキ『GT750』【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.11】
CB750フォアの最大トルク6.1kg-m/7000rpmに対してGT750は7.7kg-m/5500rpmというスペックです。数値では分かりにくいですが、実際に走らせるとGT750は僅かなスロットルオンで後輪がいともたやすく空転してしまうほど強いトルクが出て、100km/hまでの加速力では、おそらく国産トップだったと思います。 同じ排気量なら2ストロークの方が低回転でトルクが細いというのが常識でしたが、GT750は低速域でのハイレスポンスとリニアリティを持たせたトルクフルなエンジンキャラクターになっていました。 2ストロークエンジンの欠点は白煙。フル加速時に白煙モウモウ!が常識でしたが、これもスズキは変革しました。SRIS(スズキ・リサイクル・インジェクション・システム)というクランク室の残留オイルを還元して潤滑を向上させつつ、オイルの完全燃焼を図るものです。スロットル全開の1回目ではさすがに大きく白煙を吐きますが、フルスロットル2回目以降は白煙が激減します。他の2ストロークマシンにはできない芸当でした。 しかも、ラジエーターにセットされていた電動ファンが回ることがほとんどないため、のちのマイナーチェンジで電動ファンは排除されました。ラジエーターも転倒で簡単に壊れないようにガード付きとしていました。
競争よりも通い合う心が主役
1970年代初頭といえばナナハンをはじめとする大型バイクの急増と重大事故の急増に対して、スズキは慎重な姿勢をとりました。 最高出力や最高速度など高い動力性能を積極的にアピールしていないのです。 当時のカリフォルニア州サンタフェのUSスズキが製作したカタログの文末では、競争と決別するGT750の作り込みの意思を明確に表しています。 『And say goodbye to competition.』 グランドツアラーとしてGTの文字を取り入れているGT750ですが、時をほぼ同じくしてデビューした「静かなる男のためのCB500フォア」のカタログの味わいにとても近いものです。 ただし、ホンダの場合、登場人物はジェントルマン1名ですが、スズキは1976年のファイナルモデルのカタログでも男女カップルでGT750をアピール。競争よりも通い合う心が主役でした。 ──北米ではウォーターバッファローの通り名だったが、英国や豪州では異なる名で呼ばれた。