’70年代2スト技術の集大成 1971年スズキ『GT750』【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.11】
小型乗用車の3気筒エンジンと同じシリンダーピッチだった
巨大な北米市場に向けて日本の各社は1960年代後半になって大型バイクの開発に取り掛かりましたが、スズキはT500の上級モデルとしてGT750のプロジェクトを1968年にスタートしました。高性能な2ストローク3気筒でライバル他社とは異なるスズキ独自の路線を選択たのです。 耐久力と扱いやすさで海外では高評価な並列2気筒のT500に採用するピストンを、もうひとつ加える形でスズキは並列3気筒の750ccと決定しました。そうすると今度は中央シリンダーが冷えないため、水冷化することも早々に決めました。 奇しくもスズキには水冷2ストローク3気筒785ccエンジンを搭載するFFの小型乗用車フロンテ800があります。フロンテの3気筒エンジンはT500・GT750と同じ70mmのボアです。ストロークのみ異なる造りですが、まさにそれは同じシリンダーピッチ採用で得られる高い信頼性とコスト低減を両立するスズキらしい発想です。 ──1965年に発売されたフロンテ800は、マイカー時代の到来を前にスズキが初めて発売した5人乗り小型乗用車だった。最高速は115km/hで、リヤガラスに曲面ガラスを採用、四輪独立サスペンションによって快適な乗り心地を実現したという。 ●当時価格:46万5000円(東京価格)
120度クランクを持つ2ストローク3気筒エンジンは滑らかな回転フィールとなるのですが、実際には必要な箇所をラバーマウント式にして不快な振動を低減。実に気持ち良い回転フィールを得ています。 当時は高速道路の制限速度が一般車両で100km/hのところ、二輪車と軽自動車は80km/hという法定速度でしたが、ちょうどこの速度で極上の滑らかさ&乗り心地が実感できました。 乗り心地といえばメカノイズも関係します。空冷2ストロークエンジンでは焼き付きを避けるために大きなピストンクリアランスを取らざるを得ないのですが、そのためにピストンスラッジ音などのネガが発生します。GT750では水冷化によってピストンクリアランス縮小を可能として、それまでの2ストロークエンジンとは思えない静粛性と滑らかさを実現しました。 静粛性と滑らかさといえば、おとなしい走りをイメージしやすいのですが、実は侮れない速さをGT750は見せつけたのです。 ──●高速連続走行で比類ない静粛さを誇る新設計水冷エンジン。/●低速から高速へフラットでスムーズな加速の2ストローク3気筒。/●低速トルクの増大と快い排気音をつくるECTS採用の4本マフラー。/●重厚。流麗。精悍。機能美を追求した風格あるスタイリング。/●GPレースの経験から生れた2パネル・2リーディングブレーキ/●みやすいメーター群、大型ヘッドライトが代表する数々の安全設計。