’70年代2スト技術の集大成 1971年スズキ『GT750』【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.11】
走り味とサウンドがとても好印象だったGT750ですが、初期型のカタログはまさに意外性に満ちたものでした。ナナハンクラスで先行するCB750フォアに対して2ストロークバイクならではのパワーや素早いフットワークをアピールするのではなく、その真逆の極めてジェントルな雰囲気に溢れた作りだったのです。 1971年の晴海で開催された東京モーターショーに出品されたGT750の展示ブースには大きな写真が飾られていました。それがこのカタログの表紙をめくった見開きの写真そのものだったのです。 ワンピース姿の女性とヘルメットを右手に持つジェントルマンが寄り添う、まさに映画かと思うような落ち着きに満ちたシーン。 ──GT750の特大ポスターにも使われた写真が、カタログの最初の見開きに 主役はバイクではないのか?と思える大人の世界観です。 そんな絵心いっぱいの、畳1枚分と思えるほど特大のポスターは無料配布か有料だったか、長きに渡り私の部屋の壁紙になっていました。
カタログコピーで自画自賛するのが昭和の文化
次のページの見開き右上には「2ストロークの名門」スズキが至難の業に挑戦してついに完成した野心作、と書き始めています。自社の技術を自画自賛するカタログコピーに昭和を感じます。 スズキにしてみればピストンの焼付きトラブルを避け、不快な振動やノイズを低減するというそれまでの2ストロークエンジンでは困難な命題を克服する使命感を持っていたと思います。 そのページの文末は「GT750だけが持つ濃密な感覚の世界が現代の男たちを静かな興奮のるつぼに誘惑します」と非常に難しい表現で括っています。 この見開きでは二人は退場して、同じ場所でバイク位置とカメラアングルを変え、雨が止んだ直後のようにあえて水滴がついたままのGT750にフォーカスしています。ハンドルバーまわり、グラブバー、前後フェンダー、鉄製メッキホイールにスポーク、エキパイ、マフラー、バフ掛けされたフロントフォークなど徹底的にキラキラ輝く演出を狙っていますし、これもまた昭和なカタログ表現です。 ──雨に濡れたマシンをカタログに使うというのも斬新だった。