いったい、景気は良いのか、悪いのか? 9月の月例経済報告をどう読む? 小幡績(経済学者)
月例経済報告が、絶対水準よりも、相対、景気の満ち引きに焦点があるのは、この報告の目的からいって当然だ。政府の経済政策のために、景気がどうなっているか、ということのために報告されているからだ。つまり、景気の転換点、潮目をみることのために使われるのであり、景気が減速し、そして好況から不況に転換したら、景気循環を均すために、経済政策を発動すべきかどうか、それの判断材料であるからだ。 この結果、もともとは予定されていなかった読み手(本来は首相および閣僚に報告するものだ)に対する発信機能としても、これが焦点になる。つまり、政府が景気の判断を変えた、景気対策へのスタンスが変わった、というシグナルになる。そして、このシグナルとしての機能だけが重要なのだ。 そうなると、内閣府としても、景気が悪くなってきたら、そのまますぐに悪くなりました、とは書けなくなる。景気対策の準備、心構えなしに、不用意に景気が悪くなったとは書けないのだ。だから、景気対策へ舵を切るタイミング、という政策的判断が、表現には含まれる。ただし、嘘を書くわけにもいかないから、現実の経済と政府の経済政策スタンスとのバランス、せめぎ合いの結果が、報告の文章になるのである。 さて。では、9月はどうなんだ、と。消費税10%への引き上げを巡ってどうなんだ、ということになると、景気が8月ほどは良くないということは認めつつも、景気対策を直ちにやる、というスタンスではないよ、ということが現れているという解釈が普通だろう。消費税に関しては、まだ決めていないと、ということで、景気下ぶれリスクに配慮しつつも、景気は基本はいい、という判断を崩すまでは、8月との比較では減速しているとしても、至らない、ということだ。そして、実際、ほかの指標から言っても、景気は、まだ悪いと言うよりは良いのであって、経済報告を政府の都合だけを表現しているとは言えないだろう。 ---------- 小幡績(おばた・せき) 1992年東京大学経済学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。一橋大学経済研究所専任講師などを経て、2001年ハーバード大学Ph.D。著書に『リフレはヤバい』、新刊に『GPIF 世界最大の機関投資家』などがある。