なぜヨガでメンタルヘルスが改善するのか? 自律神経が“整う”仕組みを公認心理師が解説!
フィットネスのひとつとして定番になったヨガ。体験してみたり、習い事として続けていて、終わった後に気持ちが穏やかになることを実感している人は多いはず。これって一体どうして? ヨガがメンタルヘルスに効く理由を、公認心理師でヨガ講師の南舞さんに伺いました。 【メンタルヘルスを整えるアイデアまとめ】自分でできる呼吸法、セラピー、瞑想ほか(画像)
■ポーズだけじゃない! 心を整えるメソッドとして確立されたヨガ ──セルフケアの一環としてすっかり定着したヨガ。近年では、ヨガクラスを取り入れたメンタルクリニックが登場したり、海外ではヨガセラピストが常駐していたりする病院もあるようですね。なぜヨガはメンタルヘルス改善に効果があるのでしょうか? 南舞さん(以下、南):前提として、ヨガは心を整えるという目的をベースに確立されてきたという歴史があります。 現代のヨガといえばポーズがメインで、フィットネス的なイメージが強いですが、本来、ヨガは悟りを開く(=心の迷いから脱却して真理を会得する)という究極的なゴールを頂点として、8段階で深めていく「八支則(はっしそく)」というメソッドとして体系化されているんです。
下から1段目、2段目は日常の心構えで、その次のステップとして3段目に「ヨガのポーズ」が位置づけられています。 ヨガのポーズは4段目にある「呼吸」を快適にし、内観を深め(5段目)、一点に集中できる力を養い(6段目)、7段目に位置づけられる「瞑想」ができる心身に整えることが目的(上、イラスト参照)。 つまり、ポーズを取ることで完結するのではなく、続けることで“呼吸が快適になる”というステップに進み、その過程で、自律神経が整うというのがメンタルヘルス的に重要なポイントのひとつ。 これは臨床心理でいうと、自律神経が制御する呼吸数や血圧、心拍数が低下することを特徴とする「リラックス反応」を導く実践手法=リラクセーション法の効果と重なるんです。 特にライフステージの変化が多い時期の女性は分岐点に立たされることが多い。そういうときって、どうしても交感神経が優位になりやすいんです。 また、呼吸が整うと感情の調整がしやすくなり、相手も自分も傷つかないコミュニケーションの実践につながります。自分を一回冷静に見ることができるうえ、自律神経への働きかけも後押ししてフィジカル的にも反応が落ち着き、クールダウンできるんです。 ──フィジカルへの変化だけではなく、認知(ものの受け取り方や考え方)の部分にもアプローチできるということでしょうか? 南:はい。実際、私もクライアントさんにイライラモードになったり、体が熱くなるなど怒りのサインが体に出たりしていることに気づいたときは、一回呼吸で整えるという練習をしてもらっています。 この「身体感覚に気づいて、緩める行動をする」というのは臨床心理的にいうと、認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法のひとつである、「認知行動療法」と重なる部分があります。 ──心と体の双方からアプローチができることはヨガならではですね。 南:心身相関という言葉があるように、心と体はつながっています。頭でいろいろ考えてもうまくいかないときは、実は体から反応させることですんなりいい方向に変化する場合が度々あるんですよ。 実際にカウンセリングに来てくださる方も理論的に考えるのが得意な人が多く、思考を一回手放し、ヨガやマインドフルネスのエッセンスを実践してもらうことでポジティブな反応を得られることがよくあります。 ■ヨガの恩恵を最大限、受けるために意識したいこととは? ──メンタルヘルスへの効果をより高めるために、ヨガを取り組むうえで意識したいことはありますか? 南:フィジカル重視になりすぎないことです。フィジカル重視になると、どうしてもポーズの形が気になり出して、体の中で起きていることへの意識がおろそかになりがち。 ヨガの実践で大切なのは、“内受容感覚”を育てることです。内受容感覚とは、心臓がドキドキするとか、胃の調子が悪いとか、快・不快を体の内側で感じ取る力。 自分の内側に意識を向ける練習をヨガのポーズを通して実践することで、内受容感覚が繊細になり、それが育ってくると、疲れの蓄積や風邪の兆候など自分のコンディションに気づけるようになるだけではなく、相手の感覚を想像するのも上手になるといわれています。 自分の心地よさを感覚的に知っていることで、相手の変化にも敏感に気づくことができ、思いやりにもつながります。 もちろん、フィジカル重視のヨガがあってもいいと思いますが、人間関係の複雑化などで悩みを抱えているという時期は、内面に意識を向けるマインドフルなヨガの実践をしてみるといいかもしれません。 ──毎日忙しくしていると、自分の感覚や感情を振り返る機会はあまりないように思います。意識的に取り組まないと内受容感覚は鈍くなってしまうのでしょうか? 南:それはおおいにあると感じています。例えば、満員電車はパーソナルスペースに他人がいるという本来、とても不快な状態のはず。ただ、それに慣れざるを得ず適応してしまっていますよね。 また、日本ではまだまだ我慢や忍耐という文化が根強かったり、相手ファーストがよしとされやすい環境も多く、「自分がどう感じているか」という視点が持ちづらいかもしれません。 しかし、自分の心や体の声を聞けない状態では、相手の状態を慮ることはできません。忙しいとついつい自分は後回しにしがちですが、自分だけではなく、まわりの人のメンタルヘルスのためにも、自分の快適さを知っていることはとても大切なことなのです。 ■体を通して自分の思考や行動のクセを眺めてみる ──自分自身の内受容感覚の状態を知るためにはどうしたらいいのでしょうか? 南:日常の思考や行動のクセは必ず、マットのうえでも表れます。例えば、限界を超えて頑張ったり、不快な姿勢でポーズを我慢していたり。最初は難しいかもしれませんが、ヨガのポーズと向き合う中でそんな自分にまずは気づくことから始めましょう。 心理療法だと、自分の思考や行動のクセを言語化することで、自己理解を深めますが、ヨガはポーズを取ることで、体を通し、これらに気づき、自己理解を深めていきます。言語化が得意ではなくても、そういった心理療法と同じような体験を得られるのがヨガの魅力ですね。 今はスタジオでも動画でも、本当にヨガにアクセスしやすい環境が整っています。メンタル的に苦しいな、というときは、取り組む姿勢を少し変えてみて、ぜひヨガの真骨頂である心への作用を体験してみてください。 公認心理師・臨床心理士・ヨガ講師 南舞 カウンセリングとヨガを通してメンタルヘルスをサポートするサロン「Sati.」主宰。学校や行政機関、企業にてカウンセラーとして従事し、学生時代に出合ったヨガとカウンセリングの考え方に近いものを感じ、指導者資格を取得。イベント出演、メディア監修など活躍の場を広げている。 イラスト/minomi 取材・文/長谷日向子