たった2時間の全体練習で日本一 少年野球にも生かせる「時短メニュー」で起きた変化
2017年の都市対抗野球大会で優勝 NTT東日本の飯塚前監督が導入
社会人野球の頂点に立ったチームの指揮官が、全体練習はウォーミングアップを入れても2時間で十分と言い切った。2017年の都市対抗野球で、チームを優勝に導いたNTT東日本の前監督・飯塚智広氏は、チーム全体の練習を「オールインワン」と名付けたメニューだけで完結させてきた。“一石三鳥”にも、四鳥にもなる実戦的な練習には、少年野球チームでも活かせる要素が詰まっている。 【動画】「近すぎる距離が成長を妨げる」年中夢球氏が解説する子どもとの“接し方” 練習時間が長いイメージの野球では異例の“時短”だ。全体練習は2時間。ウォーミングアップの時間を抜けば、1時間半ほどで終了する。昨年末まで社会人の強豪・NTT東日本を指揮した飯塚氏が組んだ練習メニューは、基本的に「オールインワン」の1つだけだった。 何が違うのか。複数箇所で進めるのが一般的なフリー打撃を1カ所で行う。その時に、守備と走者をつけ、けん制や守備の連係、走塁を同時に練習する。打撃投手は球種やコースを打者に伝えず投球する。限りなく試合に近い内容といえる。 当初はチーム内からも反発があった。一般的なフリー打撃や、それぞれの守備位置へ順番に打球を飛ばすシートノックを求める声があったという。しかし飯塚氏は「どこに打球が飛んでくるか、事前に分かる野球はありません。ノックにすると、野手はボールがバットに当たる角度を見ません。でも、試合では相手のスイングを見たり、味方投手の球種を考えたりする必要があります。練習で必要な感覚や反応を身に付けるわけです」と意図を説明する。
「狙い以上の効果」選手の自主練習にも変化
基礎体力を強化するキャンプやトレーニング期間は別として、飯塚氏は監督を務めた約7年間、この「オールインワン」を貫いた。半信半疑だったコーチ陣や選手も、次第に効果を実感。内野手がサインではなく、アイコンタクトだけでけん制を入れたり、打者は走者を進める工夫を凝らしたりするようになった。さらに、短い時間で走攻守を同時に強化するだけではなく、自主練習にも変化が生まれたという。飯塚氏は「狙い通りというか、狙い以上でした」と振り返る。 「例えば全体練習の時に、走者が目に入ってエラーした内野手は、自主練で同じ場面を想定した練習に取り組みます。各選手が課題を持って自主練習の時間を活用していました。それから、全体練習の時間が短いので選手には“余力”があります。体力も時間も残っているので、自ら考えて自主練習をします。よく練習する選手たちで、チーム練習は短くても、体を動かしている時間は自然と長くなっていました」 飯塚氏は現役時代から実戦を意識した練習を心掛けてきた。フリー打撃の時は「試合で球種は分からない」と、打撃投手に直球と変化球をランダムに投げるよう要望した。オールインワンを考案したきっかけは、中学時代の経験。日々の練習で1時間ほどフリー打撃の時間が設けられていたが、飯塚氏は時間を持て余していたという。「1時間のうち、自分が打つ時間は5分もありません。いつか監督になれたら、時間を有効に使える練習をしてみたいと思っていました」。約25年温めてきた練習メニューを、NTT東日本の監督に就任して実現させたのだ。 少年野球は社会人野球と違って変化球が少なく、高度なサインプレーは不要かもしれない。だが、試合につながる練習の工夫は、カテゴリーを問わず共通のはずだ。
間淳 / Jun Aida