ジンベエザメを狩るシャチ、地球最大の魚を仕留める驚きのチームプレーがついに明らかに
ジンベエザメにも身を守る術はあるが……
カリフォルニア湾はジンベエザメのホットスポットだ。とりわけ、毎年秋から春にかけて、餌を求めて子ども(体長10メートル以下)がラパス湾に集まる。 これらの子どもは「この種の捕食者に対して無防備かもしれません」とピアス氏は話す。記録された4件の攻撃はすべて、ジンベエザメが安全なラパス湾を離れて南に移動する4月または5月に発生している。 ジンベエザメは体こそ大きいが、穏やかな性格で、横幅1メートルほどの口で主に小さなプランクトンを食べる。とはいえ、簡単に仕留められるわけではない。 おとなは最大20メートルまで成長する。ボウリングレーンと同じくらいの長さだ。たとえ子どもでも、ホホジロザメやイタチザメといった捕食者より大きい。 「ジンベエザメが4~5メートルを超えると、補食できるのはシャチだけだと思います」と研究に参加したジンベエザメの専門家フランチェスカ・パンカルディ氏は話す。 ジンベエザメは最も厚い皮膚を持つ動物の一つで、特に背中の皮膚は、捕食者の歯で突き破ることができないほど頑丈だ。ジンベエザメは脅かされると、捕食者に背中を向けて丸くなる。 しかし、この防御策は、捕食者が1頭の場合のみ有効で、捕食者の群れには通用しない。 ピアス氏によれば、ジンベエザメは「急降下」で危険を回避することもあり、水深2000メートル近くまで急速に潜ることができる。 この防御策に対抗するため、モクテスマの群れは攻撃中、ジンベエザメを何度も水面に連れ戻す。すると、シャチたちは攻撃中に呼吸できるうえ、ジンベエザメが深海に逃げ込むのを阻止できるというわけだ。
ジンベエザメ狩りのホットスポット
モクテスマの群れの見事な狩りが記録されている理由の一つは、サメやクジラなどのカリスマ的な海洋生物と泳ごうと、バハカリフォルニア半島に集まる観光客の存在だ。 地元の漁師やツアーオペレーターは海洋生物学者兼水中写真家のエリック・イゲラ氏に動画や写真を送っていた。イゲラ氏は2008年からバハカリフォルニア半島で、サメやエイを捕食するシャチを研究している。 イゲラ氏は最初に撮影された狩りの写真を見て、シャチがサメの弱点であるお腹のあたりを狙っていると推測した。しかし、狩りの全容が記録されていたわけではなかった。そのため、エアーズ氏とウィリアムソン氏が幸運にも攻撃を撮影し、「ついにパズルを完成させる」まで、シャチが弱点を狙っていたと確認できなかったとイゲラ氏は述べている。 どこを見るべきかがわかった今、シャチとジンベエザメの攻防の目撃情報が増え始めている。ほんの数週間前にも、モクテスマの群れがジンベエザメの子どもを仕留める様子が観光客とガイドによって2日連続で目撃された。 ラパス沖のジンベエザメはほぼすべて子どもだが、「シャチはとても賢いため、大きなジンベエザメを仕留めることもできる」とパンカルディ氏は考えている。カリフォルニア湾の北部にいるジンベエザメのおとなは体長10メートルほどある。 シャチがおとなのジンベエザメを倒すところはまだ誰も見ていない。完全に成長したジンベエザメを倒すのは「壮絶な戦い」で、複数のシャチが協力しなければならないとイゲラ氏は話す。しかし、カリフォルニア湾では、シャチがシロナガスクジラを倒すこともあるため、海の頂点捕食者が世界最大の魚を捕食できるのも当然だろう。 適切な時間と場所で撮影された映像で、「私たちはそれを証明しなければなりません」とイゲラ氏は言う。
文=Brianna Randall/訳=米井香織