ジンベエザメを狩るシャチ、地球最大の魚を仕留める驚きのチームプレーがついに明らかに
「シャチの群れがジンベエザメに狙いを定めたら、ジンベエザメに勝ち目はありません」と研究者
シャチが地球最大の魚であるジンベエザメを狩る様子を科学者が初めて動画に収めた。この映像のおかげで、シャチがジンベエザメを日常的に食べており、地球最大の魚をどのように仕留めるのかがついに解き明かされ、2024年11月29日付けで学術誌「Frontiers in Marine Science」に論文が発表された。 【連続写真】ジンベエザメを狩るシャチ、驚きの全貌 写真7点 2024年5月26日、サメの生態を研究するキャスリン・エアーズ氏がメキシコ、ラパス沖で観光客を案内していたとき、シャチの群れが旋回しているのを目撃した。「哀れな動物が苦しめられていると思いました」とエアーズ氏は振り返り、「シャチは獲物をもてあそぶことがあります」と説明する。 エアーズ氏は写真家のケルシー・ウィリアムソン氏と海に入り、シャチのおとな4頭と子ども1頭が体長約5メートルのジンベエザメを仕留める様子を撮影した。 これまで、シャチによるジンベエザメの狩りを報告した論文は1本のみだった。メキシコのさらに南側で、釣り人が撮影した映像を元にしていたが、狩りのすべては記録されていなかった。一方、新たな研究では、エアーズ氏が春に撮影した映像に加えて、市民が提供したほかの3本の映像や写真も含まれている。 2018年の最初の狩りは、ラパス北部でアシカとシュノーケリングする予定だったツアーグループが撮影した(狩りが始まったため、一行はボートで待機していた)。2回目と3回目の狩りも、ダイビングボートに乗っていた観光客がそれぞれ2021年と2023年に撮影した。 これらの決定的な証拠のおかげで、研究者らはシャチがどのように巨大な獲物をしとめるのかをすべて説明できた。
巨大な魚を狩る巧妙なチームプレー
まず、シャチたちはゆっくり泳ぐジンベエザメに何度も体当たりして気絶させた。ジンベエザメが平衡感覚を失うと、シャチたちは協力してジンベエザメをひっくり返し、無防備な腹を上に向ける。 「最後の一撃の音が聞こえました」とエアーズ氏は振り返る。これがとどめの一撃だった。 次に、ジンベエザメの腹びれをかみちぎり、失血死させた。その後、脂の乗った巨大な肝臓を含む内臓を食べる。 むごたらしい。かつ、巧妙だ。 鳥たちもごちそうにありつこうと、肉の塊に群がった。「まるでジンベエザメに雨が降っているようでした」 1992年に初めて目撃された「モクテスマ」という名のオスが、4回のうち3回の補食に参加していた。モクテスマはおそらく群れを率いていたメスの息子で、サメを捕食する方法を母親から学んだのだろう。4、5頭のメスもしくは若者と一緒にいることが多く、モクテスマ抜きで狩りを始めた例もあった。 「モクテスマの群れ」と呼ばれるこのグループはサメとエイ(軟骨魚類)を専門としているようで、バハカリフォルニア半島南部の沖合でエイやオオメジロザメも狩っている。 モクテスマの名前の由来は有名なアステカの皇帝だ。この群れのメスたちにもケツァリ、ニーチ、ワーイ(マヤ語で「魔女」の意。魔女の帽子のような背びれを持つ)といった名前が付けられいる。 ジンベエザメを食べるこの群れの食性は特殊かもしれない。「ジンベエザメがシャチに狙われるという話は、世界のほかの場所では聞いたことがありません」と海洋大型動物保護財団の事務局長で、ジンベエザメの保護に取り組むサイモン・ピアス氏は話す。「しかし、シャチの群れがジンベエザメに狙いを定めたら、ジンベエザメに勝ち目があるとは思えません」。なお、ピアス氏は今回の研究に参加していない。