残された時間はあと少し「日本米の王さま」コシヒカリが食卓から消える…?
日本米の代表格であるコシヒカリが、いま危機に瀕している。予想を上回る気温上昇のスピードに対応すべく、いま研究者たちは、極端な暑熱に耐えられるDNAをコシヒカリに組み込むべく、全力で取り組んでいる。 【画像】「日本米の王さま」コシヒカリ 日本では、国内で最も人気の高いコメ品種が気候変動により大きなダメージを受けている。そしていま、日本の科学者はその品種を救うため、限られた時間と闘っている。山地の多い新潟県は、日本のコメ生産の中心地だ。同県の農業研究所の科学者チームはこのほど、コメのDNA配列から一部のコメ品種に高温耐性を与えるDNAパターンを特定した。 現在、彼らはこの遺伝子パターンを「コシヒカリ」へ移植する道を探っている。コシヒカリは40年以上、日本国内のスーパーマーケットに流通するコメ品種のなかで圧倒的な売り上げを誇ってきた。もちもちとして甘みがあり、長らく「日本米の王さま」とされてきたコシヒカリだが、その行く末は、研究者らの取り組みが成功するかどうかにかかっている。
予想を上回る気温上昇
日本は2023年、記録的な猛暑に見舞われ、全国のコシヒカリ産地が打撃を受けた。ほかのコメ品種と比べ、コシヒカリはとくに暑さに弱く、灼けるような高温にさらされてもろくなり、白濁した玄米(白未熟粒)になってしまう。これは、コシヒカリが地域経済最大の農産物である新潟のコメ農家にとって、手痛い一撃だった。 2023年に穫れた新潟県産コシヒカリで、最高の「1等級」に認定されたコメは5%にも満たなかった。1等級米は60キロ入りのコメ袋換算で1000円前後高く売ることができる。新潟県産コシヒカリは過去10年、約80%かそれ以上が1等級米と認定されてきた。 新潟のコシヒカリは、気温上昇による大打撃を受けている世界の農業産業のほんの一例にすぎない。ボルドー地方のブドウ栽培家から、アフリカでカカオを収穫するカカオ栽培農家まで、農産物の生産者は何代にもわたって続けられてきた農法や栽培方法の見直しを迫られているのだ。 猛暑は、ベトナムやタイなど、日本以外のアジアの穀倉地帯のコメ生産にも影響をおよぼしている。調査会社「フィッチ・ソリューションズ」傘下「BMI」のシニア商品アナリストのチャールズ・ハートは、「こうした地域では日本以上に、気温上昇の影響は大きくなる」と指摘する。 「コメの生産には大量の水が必要です。気温が徐々に上昇し、猛暑に頻繁に見舞われるようになれば、高温耐性を備えたコメの開発が急務です」 日本政府は関税をかけてコメの輸入を制限している。2024年の夏、日本各地で起きたコメ不足は、2023年のコシヒカリの不作も一因だ。スーパーのコメ売り場からコメが消え、消費者のあいだにパニックが起こった。農政当局に対し、政府備蓄米の放出を求める声が上がった。 「私たちにとって、2023年の夏は激甚災害(げきじんさいがい)級でした」と、1895年に設立された「新潟県農業総合研究所」に所属する技術士の小林和也は話す。同試験場の科学者らは、昨夏のような猛暑にも耐えられる新しいコシヒカリの開発を急いでいる。 「私たちは、21世紀末頃までに気温がどの程度上昇するかという予測に基づいて、コメの品種を開発してきたのです」と小林は言う。 「でも2023年夏の新潟は、その予測された気温にすでに到達していました」