「また大地震来る」80年前も流言 「昭和東南海」翌日、静岡県西部で拡大 不安な心理から
太平洋戦争中の1944年12月に起きた昭和東南海地震の翌日、浜松市内で「また大地震が来る」との流言が発生し、半日で静岡県西部に広まる騒動があった。かつては地震後も不安が消えない被災者心理から口コミで広まる形が中心だった流言。現代では、被災地外から発信されるデマに起因するケースも加わるなど複雑化している。専門家は「行政やメディアは誤情報をすぐ打ち消し、市民は誤情報を信じないようリテラシー(知識や判断力)を高めることが大切」と指摘する。 東南海地震での流言は、当時の新聞報道などによると、浜松市内で通行人が「大地震の翌日だから相当な余震があるかも」と話したのが発端。それを聞いた人々が「また地震が来たらどうしよう」、さらに「今日の午後、また大地震が来る」と内容がゆがめられて拡散。根拠のない時刻まで加えられて混乱が広がったため、警察官らが街頭で沈静化を図る事態となった。
阪神、東日本でも 専門家「誤情報拡散防ぐ必要」
震災下の流言を研究する日本大の中森広道教授(災害社会学)によると、地震再来を唱える流言は阪神大震災、東日本大震災、熊本地震など大地震のたびに発生している。中森教授らが昨年の能登半島地震後に石川県珠洲、輪島両市の住民617人に行ったアンケート(回答率59・1%)では、回答者の26・6%が「〇月〇日にまた大地震が来る」との流言を見聞きした。 流言が広がる要因の一つは「人は心の中に矛盾が生じた時、考え方を変えて解消しようとする」という心理学の理論で説明されると中森教授は話す。東南海地震の流言は「本震が発生して地震の危険は去ったはず」なのに「いつまでも不安が消えない」との矛盾に悩む人が「また大きな地震が来るから不安なんだ」と考え、自分の感情を整理するのだという。 被災者の不安から口コミで広まる場合が多かった流言だが、近年は交流サイト(SNS)に「家族が倒れた家具に挟まれて動けない」(2024年の能登半島地震)、「動物園からライオンが逃げた」(16年の熊本地震)と投稿されるなど、被災者ではないとみられる人々がデマを流し、被災地の人々を惑わすケースも増えている。中森教授は「誤情報を拡散させないよう関係機関がはっきり否定する必要がある」と訴える。静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授(防災学)は「SNSなどの災害情報は信頼できる発信者によるものか、普段からの見極めが大切」と市民のリテラシーの重要性を指摘する。 <メモ>社会学などでいう「流言」とは、人々の間で自然発生的に生まれ、口コミなどで広まる真偽不明の非公式情報を指す。伝える人の感情が混ざって次第に内容がゆがめられ変化していく場合も多い。一方、「デマ」とは情報操作のため事実でないと知りながら意図的に流す情報をいう。伊豆半島東部などで25人が死亡・行方不明となった1978年の伊豆大島近海地震では、県が余震に注意を促すため発表した「余震情報」が多くの県民に「再び大地震が起きる」と誤解されて流言が拡散し、一部の人々が避難準備を始めるなどパニック状態となった。