貴乃花親方は、告発状が事実無根であると認めろ！という圧力を受けて、信念を曲げずに相撲協会に引退届を提出した

大相撲の元横綱で年寄の貴乃花親方（46）が25日、日本相撲協会に退職にあたる「引退届」を提出、都内の法律事務所で記者会見を開き、その背景、理由、今後の身の処し方などを明らかにした。貴乃花親方の引退で、貴乃花部屋は消滅、部屋には小結の貴景勝、平幕の貴ノ岩、十両の貴源治の3人の関取が所属しているが、計8人の力士と床山、世話人は、旧貴乃花一門で貴乃花部屋付きの親方だった千賀ノ浦部屋への移籍を希望している。だが、日本相撲協会側は、貴乃花親方が主張した引退理由を真っ向否定。引退届を受理しないなど、身を挺してまで行った貴乃花親方の“最後の主張”の行方が混沌としている。 　

　午後5時から六本木ヒルズ内にある法律事務所で行われた会見にスーツ姿であらわれた貴乃花親方は、最初に文書を読みあげた。それによると、8月7日に日本相撲協会から八角理事長名で、外部の弁護士の見解を添付した文書が届き、「告発状は事実無根な理由に基づいてなされたもの」と結論づけられていたという。 　ここで示された告発状とは、貴乃花親方が3月9日、内閣府に対して、弟子の貴ノ岩が元横綱の日馬富士から傷害をうけた事件に関しての日本相撲協会の対応の問題について訴え、協会への立ち入り検査などを求めたもの。だが、その後、弟子の貴公俊が付け人を支度部屋で殴る暴力問題があり、監督不行き届きを反省して3月28日には、告発状を取り下げた。だが、協会側は、この告発状を問題視し続け、外部の弁護士に調査を依頼して文書を作成、貴乃花親方には、8月末までに、この結論に対する回答の返答を求めていた。 　貴乃花親方は「書面で事実無根ではないことを説明してきた」が、「告発状が事実無根であることを認めないと、親方を廃業せざるをえないという有形無形の要請を受けていた」という。 　7月には、協会の理事会で、すべての親方は5つある一門のいずれかに所属しなければならないという決定がなされた。ただ正式な書類による伝達はなく、貴乃花親方は、記者の質問などで知る始末。 　無所属だった貴乃花親方に声をかけてくれた一門もあった。「声をかけてもらった一門に所属することができたのかもしれないが、事実無根であることを認めるように、役員から今場所の終盤に言われた。真実を曲げて、告発は事実無根と認めることは、私にはできません。どこの一門にも入れてもらうことはできない」と追いつめられた。そこで貴乃花親方を悩ませたのは弟子の問題だ。 「貴乃花部屋の力士が相撲を続けることは困難で、安心して精進、鍛錬できない。何か新しい存続できる道を見つけたとしても、弟子たちが、なんらかの形で緊張やプレッシャーを受けてしまうことは避けたい。こういう状態の中で、私の弟子が萎縮して怪我をしたり、そういうことは避けたい。断腸の思いで苦渋の決断をした。弟子たちが土俵で活躍することを最優先した」 　引退を決断したのは25日の朝。「入門も自分の意思。自分の意思で自分のありかたを行動に移さねば」。家族も黙って同意してくれた。弟子にも、直接、伝えた。8人いるほとんどの弟子が涙したという。 　貴乃花親方は「これからも見守っていく」という言葉を伝え、各人の希望を聞いた上で、千賀ノ浦部屋への移籍を承諾してもらった。千賀ノ浦親方は、旧貴乃花一門で現役時代は二子山部屋の兄弟子だった元小結隆三杉。　貴乃花親方は、自分に何かがあったときに備えて、数年前から千賀ノ浦親方を「将来はいつ引退するか分かりません。弟子達をお願いします」と後継者として指名。「努力します」との言葉をもらっている。 「入門から面倒みてもらった人。その方に託したい」。千賀ノ浦親方は、部屋付きの親方だったため、弟子たちとも気心がしれているという安心感もあった。 　この日の会見で饒舌になったのは、すべて弟子たちへの思いを語るときだった。それだけに、弟子を手放すことを「悲しい」「無念」と表現した。