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[寄稿]文在寅政府の対北朝鮮拡声器

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ハンギョレ新聞

 北朝鮮の4回目の核実験に対応した韓国政府の対北朝鮮制裁措置で、前方での拡声器放送が始まった2016年1月。当時、朴槿恵(パク・クネ)大統領は新年の辞で、拡声器放送を聞いて前方から多くの脱北帰順者が現れるという期待を表明し、これを“真実の力”だと述べた。新年の辞の発表から10日後の1月22日、大統領府で開かれた安保部署の業務報告の場に参加した脱北軍人が、「拡声器放送を聞いて脱北を決心した」と発言すると、朴大統領の顔には喜びの微笑が浮かんだ。「我々が北朝鮮の急所を刺した」という確信の表情だった。国防部は160億ウォンを投じて高性能拡声器を前方に設置し、毎日10時間以上も放送した。そこまですれば、前方から帰順者があふれ出る筈なのに、まったくいなかった。よほどの焦燥のためだろうか、その年の総選挙を1週間後に控えて、国家情報院は中国で北朝鮮が営む柳京(リュギョン)食堂から状況を知らない12人の従業員と支配人をまとめて連れてきてマスコミに公開してしまった。前方から脱北者が現れず時間ばかり浪費するや、10月の国軍の日に大統領は「北朝鮮の住民と軍人は自由の地へと渡ってこい」と言い、公開的に脱北を促した。拡声器放送も北朝鮮の政権に対する攻勢を日増しに高めていった。  2017年5月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政府には、前方の拡声器が頭痛の種だった。なくそうとすれば保守マスコミが「北朝鮮の顔色を見てばかりいる」と反発するのが明らかで、そのままにすれば前方に混乱を起こすだけの物をどうすべきか。そこへ実に創意的な代案が出てきた。既存の拡声器放送は北朝鮮の体制の劣等さを指摘し、指導部の尊厳を攻撃したり、住民と軍人の脱北を薦める内容が主だった。文在寅政府は、政治的内容をそっくり除いてしまい、アイドルの公演、天気、健康のような生活情報、そしてラジオの連続ドラマに編成をすべて変えてしまった。朴槿恵政府が作った対北朝鮮心理戦の道具に、文在寅政府は尊重、配慮、有用性、娯楽を載せて送った。この時から驚くべきことが起きた。前方から脱北してくる住民と軍人が突然増加し始めた。その年の6月だけで、北朝鮮軍人の帰順が中部戦線で2回あり、8月には西海(ソヘ)の喬桐島(キョドンド)から住民が帰順した。その後も毎月、前方からの亡命が相次いで、11月初めには11人に達した。それ以前の2年間の前方脱北者を凌駕する数字だ。ある北朝鮮兵士は合同尋問の過程で「連続ドラマに出ている女優に会いたい」として、自分がファンであることを明らかにした。兵士の願い通り、当時連続ドラマを朗読していた国軍情報司令部の女性上士がその後に兵士に会ったのか、筆者はそれがとても気になった。  どんなに脱北を促してもテコでも動かなかったのに、脱北ではなく放送でも楽しんで欲しいと言えばどんどん越えてくる北朝鮮の兵士たちは、大多数が90年代以後に生まれた新世代だ。新しい流行に敏感で、物質的な豊かさと幸福を渇望する指向の新しい北朝鮮の世代に対して、朴槿恵式の心理戦は効果がなかった。北朝鮮の体制を崩壊させると吠えた国軍情報司令部がある日親切な案内者の顔に変わるや、実際に北朝鮮の体制に微細な亀裂が発生するという逆説こそが、厳然たる南北の現実だ。文在寅政府は、北朝鮮にきわめて親切に配慮し尊重してきた。北朝鮮の政権にとっては、こうした文在寅がかつての冷戦時の戦士のように吠えまくる朴槿恵よりはるかに厄介で、ひいては脅威の存在なのかも知れない。自分たちの体制を威嚇するのは、冷戦式の封鎖政策ではなく、より適応が難しい親切な案内者などであるためだ。北朝鮮の政権の立場を考慮して、2018年の4・27板門店合意により対北拡声器放送を中断した。その直後から最近まで、前方からの北朝鮮兵士の脱北行列は止まった。  今週の初めに米国のスティーブン・ビーガン国務省副長官がソウルに来た。再び朝米対話が再開されるのではないかという慎重な展望が出てくると、北朝鮮はチェ・ソンヒ第1外務次官とクォン・ジョングン米国局長が、3日間隔で「米国と向き合うことはない」という声明を出した。繰り返し相手に「関心がない」と言うことは、実は「関心がある」という意味だ。本当に関心がないならば、ビーガンがソウルに来ようが来まいが無視すれば良いだけだ。そうはできないので反語法攻勢を続ける北朝鮮式拡声器の文法を理解するならば、私たちは一層親切で注意深く北朝鮮に対して案内者の役割を続けなければならない。これが文在寅式の対北朝鮮拡声器のとても優れた効能だ。北朝鮮が反応するからだ。 キム・ジョンデ正義党朝鮮半島平和本部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

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