【神戸刑務所編】この刑務所どこかおかしい・・・突然、軍隊式の号令「気をつけ~~!!!!!」《さかはらじん懲役合計21年2カ月》
人は絶望からどう立ち直ることができるのか。 人は悪の道からどのように社会と折り合いをつけることができるのか。 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月! じんさん、帯広刑務所を出所したらと思いきや、またまた「ワル」をしでかして今度はヒガシからニシヘ! 今度は神戸刑務所に3年間お世話になります。 神戸刑務所編、さっそく「先例」を浴びます。じんさんどうする⁉️ この記事の写真はこちら ■新幹線の車窓から富士山へ「また三年後に会おうぜ」 受刑者の一人がトイレに立つと、一本のロープで繋がっているボクたちは、一蓮托生だった。大便でも催そうものなら、全員で繋がってゾロゾロと便所まで行き、そいつが大便をし終わるまで、一緒になって狭い通路に張りついて待っていなければならない。しかもその間、便所の扉は開けっぱなしになっているから、否が応でも臭いがボクたちの鼻ヅラまで漂って来るのだった。 その先頭に立つ護送担当の看守も、逃亡を企ててはいないかと覗き込んでは、その臭いに鼻の穴をヒクヒクと痙攣させながら、終わるのをジッと耐えて待つのだから、これも職務とはいえ、ボクたち以上に過酷だったであろう。 途中、富士山がボクたちを出迎えてくれた。その秀麗な眺めにボクは目を奪われ、感動してしまった。おかげで、富士山の圧倒的な存在感は、しばらくの間、ボクに何かスピリチュアルなものを感じさせ、語りかけて来るかのように、ボクを魅了していたものである。 やがて富士山がなだらかな稜線を見せ始め、徐々に裾野を広げてくると、ボクは富士山に向かって、「また三年後に会おうぜ」とだんだん遠く離れていく富士山の雄姿に別れを告げたのだった。 ■突然、頭のテッペンから奇声「気をつけー!」の号令 西明石駅に着くと、護送バスが出迎えに来ていた。こういうところはVIP待遇なのである。護送バスが神戸刑務所に入ると、所内のあちこちから例の軍隊式の号令や、歩調をとる懲役たちの掛け声が聞こえてきた。いよいよもって、神戸刑務所での新しい生活が始まるのだと実感する。 ボクたち護送されて来た懲役は、さっそくその日から、顔見せのために新入訓練工場へ出役となった。 護送されて来た6人の中に、渋谷の現役ヤクザで、御年75歳になる「蔵さん」という〝老侠客〟がいた。というより、老ジャンキーだったが。 新入訓練工場では、訓練を受けている懲役たちが下を向いて黙々と作業をしていた。 ボクたちは担当台の前に一列になって立たされた。そこへ上唇の端に大きなホクロをつけた担当部長が、これまた大きな目をギョロつかせてやって来ると、「休め」の姿勢で立っているボクたち6人を一人ひとり、ギョロリ、ギョロリと鋭く睨(ね)め回した。 そして突然、頭のテッペンから奇声を発して、「気をつけー!」と号令をかけた。というよりも吠えたのだ。 もちろん担当部長も自ら、「気をつけ!」の姿勢をとって、号令をかけている。しかし、身体は後ろへ反り返り、脚はO脚に開いて、顔の位置、視線は上を仰いていた。 どうもこの刑務所の雰囲気はおかしいぞと感じながら、再び、漫画の『嗚呼!!花の応援団』の世界を思い出していた。 (『ヤクザとキリスト~塀の中はワンダーランド~つづく)
文:さかはら じん