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葬儀から半年後に出てきた「亡父の借金560万円」は回避できるか

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プレジデントオンライン

法律や訴訟には「抜け穴」があり、うまく活用すれば不利益を回避する手立てとなる場合がある。新刊『法律の抜け穴全集(改訂4版)』(自由国民社)から、「抜け穴」を活用した2つのケースを紹介する――。 【この記事の画像を見る】  ※本稿は、自由国民社 法律書編集部『法律の抜け穴全集(改訂4版)』(自由国民社)の一部を再編集したものです。 ■妹に借金があったのに、亡父が相続放棄をしなかった  亡父が親族の多額の借金を相続したことをその死後半年経って知ったが相続放棄ができた遺族の話 【財産相続のアナ:相続を知ってから3カ月以内】  青山一郎さんに、凸凹金融から内容証明郵便が届いたのは、八月の初めだ。「なんだろう? 」と、首を傾げながら開封した彼は、文面を読んで驚いた。三月半ばに亡くなった彼の父太郎さんの債務560万円を、相続人である彼に払えという内容だったからだ。  太郎さんの遺産は銀行預金150万円だけで、病院代や葬儀代を払うと、唯一の相続人である一郎さんの手元には50万円も残らなかった。もっとも、太郎さんには借金もなかったので、彼はホッとしていたのである。  内容証明を読んだ一郎さんは、言うまでもなく差出人の凸凹金融に、何かの間違いではないかと、抗議した。しかし、凸凹金融の担当者は、その抗議を一蹴したのである。担当者の話では、亡父太郎さんは、彼の妹である渋谷花子さんの相続人の一人で、彼女に借金があったのに、亡父は相続放棄しなかったため、彼女の借金の一部560万円を相続したのだという。しかも、亡父がその借金を払わないまま亡くなったため、一郎さんが、その債務を相続したというのである。

■「3カ月以上経ってるから相続放棄はできない」と言われたが…  叔母花子さんは亡父より5カ月ほど早く、昨年10月後半に亡くなっていた。ただし、一郎さんがその事実を知ったのは、今年初めに送られてきた喪中葉書によってである。そもそも、叔母には二人の子どもがおり、相続人はその子ら(第一順位)のはずで、その場合には兄弟姉妹(第三順位)である亡父に遺産の相続権はない。  一郎さんは事実確認のため、従兄弟である叔母の長男に連絡した。すると、彼ら叔母の子は二人とも昨年末に相続放棄していることがわかった。他に、叔母の相続人になれる彼女の夫(配偶者)も彼女の両親(第二順位)も、すでに他界していたため、その時点で生存していた一郎さんの亡父が相続人となったのである。一言、相続放棄の連絡をくれれば、一郎さんも亡父に相続放棄させられたのにと思ったが、今さら悔やんでも仕方がない。  凸凹金融の担当者は、「お父さんが亡くなってから、3カ月以上経ってますから、あなたはもう相続放棄できませんよ」と言われ、しかも払わなければ裁判を起こすと言われて、一郎さんは困ってしまった。  ところが、その話を会社の上司にすると、「内容証明がきたのは先月だろう。そのとき初めて債務相続のことを知ったんだから、今からでも相続放棄すればいいよ」と教えてくれたのだ。  一郎さんは急いで必要書類を揃え、内容証明が届いた翌月、家庭裁判所に、亡父太郎さんの遺産の相続放棄を申し立て、裁判所に受理されたのである。 ■この場合は「内容証明が届いたとき」が起算点  【問題点】  亡くなった人(被相続人)の相続人は、その遺産を受け取るか(相続の承認という)、放棄するか、自由に選べる。ただし、相続開始を知ったときから3カ月以内に、決めなければならない(民法九一五条)。この期間を熟慮期間といい、何も表明しないと相続を承認したことになる。  相続を承認した相続人は、被相続人に借金(債務)があれば、その債務も引き継ぐ(返済義務を負う)。  しかし、相続人が熟慮期間中に承認も放棄も決めずに亡くなることもある。この場合、その相続(再転相続という)の熟慮期間は、「その者(この事例では太郎さん)の相続人(一郎さん)が、自己のために相続の開始があったことを知ったとき」を起算点とすると定めている(民法九一六条)。もっとも、亡父からの相続開始を知ったからといって、亡父が叔母花子さんの相続人になっていることまで知り得るわけではない。再転相続についての一郎さんの熟慮期間の起算点は亡父死亡時ではなく、亡父が叔母の相続人になったことを知ったとき、つまり凸凹金融の内容証明が届いたときである。一郎さんは内容証明到達の翌月に放棄の申立てをしており、相続放棄は有効である。  亡父が親族の債務を相続したことを知らなかった相続人と相続債務の債権者が熟慮期間の起算点を争った事件で、起算点を「親族の債務を相続していると知ったとき」とする判例が出ている(最高裁・令和元年八月九日判決)。

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