馴染むまでが試練?フランス靴の名門ジェイエムウエストンにハマる理由。
クタクタになるまで履かれたビジネスシューズに、まばゆい光沢を放つほどに磨きこまれた週末専用……革靴との付き合い方はひとそれぞれだが、ただひとついえることは、履き続けた時間の分だけ、そのシワと味わいは深みを増す。そして、世界で一足の表情となって現れてくる。 そんな自分だけの相棒を手に入れたなら、自慢したくなるのが人の常。そこでフランス靴の名門ジェイエムウエストンにすっかりハマってしまった「フリークス ストア」「F LABO」ディレクター・落合輝さんに、出会いからその魅力まで語っていただいた。
ジェイエムウエストンを代表する[641ゴルフ]は大人の靴だった。
ジェイエムウエストンは前身でもあるブランシャール社の設立から数えて今年で127周年、いまやフランス靴の代表格ともなった名門ジェイエムウエストン。[180シグネチャー ローファー]や、[598スプリットトゥ クラシックダービー]といった数多の銘作を輩出してきた。 中でも1960年代にその名の通りゴルフ用モデルとして発表された[641ゴルフ]は、あまりに優れた堅牢性から後に記事を足で稼ぐ新聞記者たちに愛されることとなり、ジャーナリストシューズの異名も持つ。「我々アメカジ世代にとってはウエストンの象徴だったのと同時に、大人な一足でもありました」と落合さんは語る。
「いずれはトライしてみたい靴でしたが、若い頃は履きこなせる感じがあまりなく、大人になるにつれてその魅力が増すようになった靴のひとつですね。5年ほど前に生涯初となるゴルフを手に入れたのですが、噂に聞いていた通り最初はとにかく痛いんですよ(笑)。結局、馴染むまでに3カ月ほどの時間を費やし、もしかすると自分には合わ ないのかもと、途中諦めかけたりもしたのですが、慣れてくるとそのあまりに秀逸なフィッティングに驚きました。以来、ブラウンを友人と物々交換で、パリの旗艦店でネイビーをそれぞれ手に入れ、現在は数足を愛用するまでハマってしまいました」 とはいえ、「もともとアメリカの文化やファッションが好きでしたし、ウエストンも特にフランス靴として意識していたワケではない」という。 「ゴルフに限らずウエストンの魅力をひと言で表すなら“丈夫で品がある”。さらにとにかく美しい(笑)。僕の中では揺るがない美しさというか、一生付き合っていけるタイプの美しさが存在していて。例えるなら、メルセデスベンツ[W124]の前期型みたいな印象。ああいった普遍かつ独自の機能美があると思うんですね。つまりはファッションし過ぎず、道具としての機能美と質実剛健さを程良く残している。 それはアメリカのオールデンなどにも言えることなのですが、かしこまったシーンのみで映える非日常的な美しさではなく、毎日の生活の中で使い倒してこそ映える美しさだと思うんです。ですから、僕の中でのゴルフはフランス靴というより“あくまでワークブーツの延長線上にある上品な靴”。いまにして振り返ると、おそらく価格帯に関係なく、20代の自分には到底履きこなせなかったでしょうね」