青森でイカ・サバ激減――日本の海の異変、ひたひたと迫る「魚種交替」と「温暖化」
60日間の出漁で水揚げは3分の1
例年八戸沖では、サバは8月くらいから獲れ始める。このサバが南に下ると、宮城県石巻の沖合では特産の“金華サバ”として水揚げされる。だが、昨年八戸沖ではなかなかサバが獲れなかったと株式会社八戸魚市場・漁船部長の工藤亮人さんは言う。 「やっと(魚群が)出たのは福島・相馬沖で、それも11月くらい。そのあとサバはすぐ千葉・銚子沖まで南下してしまい、銚子沖がメイン(の漁場)になった。八戸沖は前年に比べて半減だったね」
結果的に銚子漁港でサバは多く水揚げされたが、そこでも少し変わったことがあった。サイズが例年よりも小さかったというのだ。 「サバは通常300~500グラム。ところが、向こうの関係者に聞くと、多く揚がったのは200~300グラムで一回り二回りも小さかった。ただ、銚子には小さいサイズのサバも加工してくれる業者もいるので、ほかの沖合で獲っても銚子港におろしにいった船もあると聞いています」(工藤さん) 八戸港に水揚げされる主な魚種はイカ、サバ、イワシで、この3種で八戸港の水揚げ全体の9割を占める。イカについては、冷凍設備を備えた中型のイカ釣り漁船(160~200トン。乗組員10人程度)が5月ごろから翌年2月まで出漁し、北太平洋のアカイカ、日本海のスルメイカを狙う。 八戸港は1972年から2019年まで48年連続でイカの水揚げ量日本一を記録し、日本全体の2割ほどを占めてきた。2000年ごろにはイカだけで年間約20万トンを獲ったこともある。だが、それ以降、水揚げ量は右肩下がりだ。とくに近年は落ち込みがひどく、昨年の水揚げ量は最盛時のわずか4%だった。
「獲ったらすぐに冷凍する船凍イカ釣り漁船は、以前なら45日間ほど回って満船状態(積み荷が上限)で帰ってくるものでした。ところが、昨年11月以降はまったく獲れず、60日間以上回っても3分の1ほどの状態でした」(工藤さん) かつては考えられなかった不漁に、船主も頭を抱えている。中型イカ釣り漁船を11隻と日本でもっとも多い隻数をもつある船主は、まったく利益が出ないとため息をつく。 「2016年ごろはまだ獲れていて1隻あたり1回の水揚げが2億2000万円以上になった。それが2年前は1億1000万円と半分に下がり、昨年は1億3500万円ほど。これでは利益が出ない。燃油代や人件費、保険など1隻あたりの経費は1億5000万円くらいかかるから。だから、このところ銀行との相談ばかりだ。何億円も借りなくちゃならなくなっている。漁に出なければ売り上げがなくて地獄だけど、獲りに行っても地獄なんだよ」 こうした不漁の影響は、周辺にも広がっている。