JR関西本線「亀山~加茂」なぜ凋落したのか 名古屋~奈良の最短ルート かつては特急も
「関西本線」の中間は「閑散本線」
JR西日本は2022年4月11日、「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」と題した文書を公開。合わせて輸送密度2000人/日未満の線区も挙げました。この中に関西本線の亀山~加茂間61.0kmが含まれたことに、筆者(杉山淳一:鉄道ライター)は驚きました。同線は近畿と名古屋を結ぶ幹線として歴史があり、優等列車も走っていた幹線だからです。それなのに、いまや存廃協議になりかねない状況のようです。 【え、走ってたの】関西本線最後の急行「かすが」に使われた車両 関西本線はJR難波駅と名古屋駅を結ぶ総距離174.9kmの路線です。三重県の亀山駅を境として、西側をJR西日本が、東側をJR東海が、それぞれ運行しています。JR西日本の資料「データで見るJR西日本」によると、2019年度の輸送密度はJR難波~加茂間が6万8043人/日、加茂~亀山間が1090人/日です。つまり亀山~加茂間の輸送密度は、なんとJR難波~加茂間の60分の1以下。線区営業係数は843で、これは100円稼ぐために費用が843円かかるという意味です。 JR西日本はJR難波~加茂間を「大和路線」の愛称をつけて通勤路線とし、「大和路快速」などを運行しています。一方、亀山~加茂間は非電化区間で、列車は1両または2両編成の普通のみ。日中は1時間に1往復です。なお、JR東海は線区ごとの輸送密度を公開していませんが、名古屋~亀山間は途中に四日市駅などもあり、紀勢本線直通列車もあるので、輸送密度は高そうです。 加茂駅は奈良駅から13.0kmの距離、亀山駅は四日市駅から22.7kmの距離にあります。奈良市、四日市市とも人口30万人以上あり、閑散区間の両端は都市近郊という立地です。しかし両駅を結ぶ区間だけが、1時間に片道1本のローカル線になってしまいました。
東海道本線や近鉄と競争した歴史
歴史をひもとけば、のちに関西本線となる線区は、民間会社の「関西鉄道」が建設、運行していました。官営鉄道であった東海道本線のライバルとして、大阪~名古屋間で運賃や速度を競い、関西鉄道のほうがやや優勢だったようです。しかし、1907(明治40)年の鉄道国有法で関西鉄道は国有化されます。1909(明治42)年に国有鉄道の線路名称規則が制定され、関西本線となりました。 官営鉄道は東海道本線の輸送力強化に力を入れるものの、輸送量が需要に追いつかないため、関西本線も活用しました。また、昭和に入って参宮急行電鉄(現・近畿日本鉄道)が開通し名古屋に到達すると、こんどは官営鉄道の関西本線と参宮急行電鉄がライバル関係となり、速度とサービスの競争が始まりました。 関西本線は1960年代の高度成長期、優等列車も走っていました。関西本線の全区間を走る準急「かすが」(後に急行へ格上げ)をはじめ、名古屋~柘植~京都間の急行「平安」、名古屋~東和歌山(現・和歌山)間の特急「あすか」、東京駅発着の夜行急行なども設定されたほどです。 しかし、近鉄が名古屋線を改軌して大阪~名古屋間の特急をスピードアップさせると、地域間移動としての大阪~名古屋間の競争は、全線電化複線の近鉄特急が圧倒的優位となりました。非電化の関西本線に勝ち目はありません。身内の国鉄も、東海道本線の全線電化・複線化と東海道新幹線の開通などで輸送力を強化し、こうなると大阪~名古屋間で関西本線の出番はもはやありませんでした。