なぜ井岡一翔のドーピング問題で対戦相手の田中恒成陣営が「疑念を持っている」との質問状をJBCに送付したのか?
質問状の中身は明らかにされていないが、そもそも、どういう理由で何をどう倫理委員会で審議しているのか、そして、外部の人間を入れて“第三者委員会”的なものにしたとされる、その倫理委員会は、どんなメンバーで構成されているのか、そして、いったい、いつ結論が出されるのかなどの基本的な疑念を質問していると考えられている。 過去の日本人ボクサーのドーピング違反の例としては、2017年12月に米国で行われたIBF世界スーパーフェザー級王座決定戦で判定勝利して新王者となった尾川堅一(帝拳)から禁止薬物が検出されたケースがあり、タイトル戦は無効となり王座は剥奪、JBCは尾川にライセンスの1年間停止処分を下した。ただ現段階で何も明らかになっていないため、今回の質問状は、大晦日の試合の有効性を問うような踏み込んだものではなく、あくまでもJBCが「調査、審議している」と発表した倫理委員会に関するものに留めているようだ。 井岡サイドが先に所属先のマネジメント会社のHPで「井岡は大麻等の不正薬物、違法薬物を摂取したことは一切ありません。(中略)JBCからは倫理委員会を開催する旨の連絡を受けており、井岡の潔白は、倫理委員会で主張していくことになります」との声明文を発表。潔白を訴えただけに、「JBCが粛々とルールにのっとって処分しれくれるのを待つだけで今は何もコメントできない」としていた畑中会長もアクションを起こさざるを得なかったのだろう。 しかし、JBCは倫理委員会を開き、井岡の意見を聞き、異議があった場合、B検体を調べて、ドーピング違反があったかどうかの結論を導き、処分を決定するという正式な手順を踏む前に「大麻成分」が出たことから警察に相談。病院に保管していたB検体を警察に押収されてしまった。そして警察は「捜査は終了した」と井岡サイドの代理人弁護士に伝え、違法薬物については“無罪”であることが明らかになった。 ただ違法薬物とボクシングのドーピング検査の禁止薬物は別モノ。井岡が倫理委員会の聞き取り調査で、正式に潔白を訴えた際、ドーピング違反を確定するための手続きとして、B検体の再検査が必要になるが、そのB検体がない状況では、A検体で大麻成分を含むドーピング禁止薬物が検出されたといえど“シロクロ“をハッキリと出せない状況になっている。 統括組織としてあり得ない不手際である。 もし不十分な審議で厳罰を下せば井岡陣営が異議を申し立て法的手段に訴える可能性は十分に考えられ、一方で、大晦日の試合の有効性が認められることにでもなれば畑中陣営も黙っていない。今回の畑中陣営の質問状は、その覚悟をJBCに示して牽制する意味合いもあると見られている。
質問状での返答期日はGW明けの6日。元世界2階級制覇王者の亀田大毅氏が「負けても王座防衛」問題で、JBCと揉めて、各種のライセンス更新を認めない処分を下された際にもJBCは「倫理委員会のメンバーは圧力がかかるので発表しない」としていた。畑中陣営が納得できる回答が返ってこないことは十分に予想されるが…。ドーピングでの禁止薬物が検出されてから約4か月も経過してから倫理委員会を開いているJBCは、果たしてどんなアンサーを用意するのだろうか。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)