神戸がイニエスタ高額年俸でもJ歴代最高営業収益となった理由と、それでも勝てないジレンマ
昨年まで「広告料収入」だった名称を「スポンサー収入」へ変更した背景を、青影本部長は「実態により近い形に合わせました」と説明する。もちろん、ヴィッセルだけに合わせたものではない。 「昨年まで『その他収入』だったものが『スポンサー収入』に繰り込まれたとか、そういうことはいっさいありません。ただ、広告宣伝だけの対価でスポンサードしてもらう形から、時代の変遷とともに少しずつ変化してきているので」 ヴィッセルの運営会社の株式は楽天株式会社の創業者、三木谷浩史氏が2004年2月に設立したクリムゾンフットボールクラブをへて、2015年1月に楽天へ譲渡された。それ以前、たとえばクラブライセンス制度が厳格に適用され始めた2014年度には、ヴィッセルは22億5000万円もの「特別利益」を計上。3期連続赤字と債務超過をともに解消させ、J1クラブライセンス剥奪の危機を回避している。 唐突に計上された「特別利益」は、兵庫県神戸市出身で現在もヴィッセルの会長を務める三木谷氏によるポケットマネーだったともっぱらだった。当時のJリーグ関係者も、こんな言葉を残している。 「ヴィッセルさんの場合は、言い方は変ですけど、そもそも黒字とか赤字にこだわっていない経営をしている。足りないお金に対しては『お財布』がある、ということだと思いますので」 ここで言及された「お財布」が三木谷氏のポケットマネーから株式譲渡をへて、三木谷氏が代表取締役会長兼社長を務める楽天へ移ったと見ていいだろう。2014年度以降の「スポンサー(広告料)収入」の推移を見れば9億4500万円から21億9800万円、22億2100万円、33億5200万円、そして2018年度の62億800万円へ急増した一方で、2015年度以降は「特別利益」が計上されていない。 イニエスタの加入決定と同時に、胸の部分に「Rakuten」のロゴが躍るユニフォームの左右の鎖骨部分に、グループ会社である「楽天アスピリアン」と「楽天DREAM事業」のロゴが掲出。前者は2019年5月から「楽天メディカル」に変わっている。 ロゴを掲出している2社以外にも、Eコマース、金融、デジタルコンテンツ、通信など70を超えるサービスを展開しているグループ会社による出資を介して巨額な「スポンサー収入」を具現化させ、イニエスタの年俸がまかなわれているスキームがおぼろげながら見えてくる。 メディア説明会に同席したJリーグの木村正明専務理事は、楽天をグループ全体の中心とする取り組みを「ひとつの理想の姿だと思っています」とポジティブに受け止めた。 「親会社の経営とクラブの経営の意思が、上手くつながっているケースですよね。そういうクラブがたくさん出てくればもっとJリーグがにぎわい、DAZNとの長期契約と相まって、ファンやサポーターに対してより魅力的なサッカーを展開できるなど、正の循環が繰り広げられると思っています」 イニエスタの1年分の年俸や、新外国人の元スペイン代表FWダビド・ビジャの年俸3億円(推定)が計上される2019年度決算は、さらに「チーム人件費」が増えるだろう。公式戦で9連敗の泥沼にあえぐなど、皮肉にも費用対効果が高いとは言えない状況にあるヴィッセルだが、ピッチの外では「当期純利益」を再び黒字にするスキームが着々と組み立てられているはずだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)