菅さん、江戸時代より後退していませんか?「地獄」を訴える悲痛な声 就任後、買った本に書かれていたこと
新型コロナウイルス対策の政府の方針が二転三転しています。「後手」の批判が続く菅義偉首相のもとで検討が進むのは罰則頼みが目立ち、国会報告や記者会見の回避が疑われる策も――。朝日新聞政治部(前・新聞労連委員長)の南彰記者が国会周辺で感じたことをつづります。 【画像】「県外からお越しのお客様のご利用を固くお断り」〝自粛警察〟による貼り紙の実態
「補償なき自粛」
新型コロナの感染拡大が止まらないなか、菅さんは1月13日、緊急事態宣言の対象地域を11都府県に広げました。「経済を壊したら大変なことになる」と言って、観光支援策「GoToトラベル」の継続を主張していた12月11日から1カ月あまりの間に、政府の対応は急旋回し、緊急事態宣言の対象地域の人口は約7千万人に。日本全体の半数以上になっています。 「1カ月後には必ず事態を改善させる」と訴えて、首都圏に緊急事態宣言を出しましたが、思うように街の人出は減りません。その焦りから、菅さんは対象地域を広げた記者会見で、更なる行動制限を求めました。 「不要不急の外出については、飲食店が閉まる夜8時以降だけでなく、日中も控えていただくよう、お願いをいたします」 しかし、この1月13日の記者会見は国民・市民へのお願いに力点が置かれ、新たな支援策の説明はありませんでした。緊急事態宣言の影響を受ける範囲が広がり、「あらゆる方策を尽くし、国民の皆さんの命と暮らしを守ります」と言っているにもかかわらずです。 そうした政府の姿勢に翻弄(ほんろう)されている一つが、文化・芸術です。 映画と演劇、音楽の3業界のメンバーが昨年立ち上げたプロジェクト「WeNeedCulture」は今週、国会議員に対する緊急要望を行いました。1月13日付の要請文には次のように書かれています。 「今般の感染拡大の状況下から、第二次緊急事態宣言が今月7日に発令されました。それに伴い、午後8時での閉場が法律によらない『働きかけ』として呼びかけられています。この『働きかけ』は、ライブハウス/クラブの全面的な営業停止、演劇の夜公演の中止、映画館のレイトショー上映の中止を意味します。演劇においては50%、映画では25%の営業時間の短縮がそのまま売り上げの減少に直結します。こうした文化施設に携わる者たちの存亡にかかわる問題が、法律にもよらず、何らの補償の提案もないままになされていることを、私たちは当事者として看過するわけにはいきません」 つまり、補償なき自粛要請になっているのです。 例えば、都内で1月末にミュージカルの公演を予定していた劇団は、出演者と観客の安全確保が難しいと判断し、中止を決めました。準備に少なくとも300万円以上かかってきましたが、収入はゼロ。前売りチケットの返金という辛い作業も待ち受けています。 経済産業相の梶山弘志さんは1月12日の記者会見で、「1都3県で予定されていた音楽コンサート、演劇、展示会などの開催を自粛した場合、開催しなくてもかかってしまう会場費等のキャンセル費用を支援する」と述べましたが、いまだに政府のホームページに具体的な対応は示されていません。1月15日の午後、経産省の担当に確認しましたが、「まだ補助率や対象など調整中」という回答でした。 劇団の主宰者は、今回の公演にあたって、政府の支援策「GoToイベント」を活用して準備を進めてきました。 「『GoTo』キャンペーンの一環で、停止されました。しかも、『GoToイベント』は1月31日までが対象なので(※1月15日にオンラインイベントを対象に2月28日まで延長)、6月まで延長される『GoToトラベル』と違い、全くなかったことになってしまいました。申請から認可まで2カ月もかかり、ようやく割引チケットを売り出した直後に停止です。この政策で、利益を得たのは、事務局を請け負った代理店だけだと思う。直接支援してくれる方がよほどいいです。進むも地獄、やめるも地獄という状況です」 「WeNeedCulture」のメンバーが年末年始、文化芸術にたずさわる人を対象に呼びかけたアンケートには、5378件の悲痛な訴えが詰まっています。「先々の新しい仕事の依頼が全くない」「コロナ禍で死にたいと思ったことがある」という回答も、それぞれ3割超に上っています。