【カレーライス】あこがれの大阪名物、自由軒の「名物カレー」を人生初体験!:パリッコ『今週のハマりメシ』第155回
そしてついにご対面した名物カレー。混ぜ混ぜカレーの頂点に生玉子がのった、TVや雑誌などでは何度も見たことがある、あれそのものだ! 嬉しい! ところで、自由軒のカレーには正統派の食べかたがあるらしい。まずはカレーライスをそのまま食べる。続いて、お好みで卓上のソースをかけて食べる。最後に生玉子をつぶしてカレーに混ぜて食べる。初心者の僕は、その作法に従うことにする。 まずは純粋カレーライスをスプーンですくってひと口。あ、これは僕の知っているどのカレーライスとも違う、けっこう特徴的な味わいだ。想像していたよりずっとスパイシーでピリ辛で、昔ながらの和風カレーとはベクトルの違うドライな印象。最初から混ぜてあるから、一般的なカレーのようにメリハリがあるかというと、そうでもない。ただ、それでもまったく物足りなくないのは、味の決め手らしい門外不出の"だし汁"のおかげなのかもしれない。玉ねぎにしゃきしゃきとした食感の主張が残っているのもいいアクセント。 続いて、ソースをかけてみる。するとぐっと深みと甘酸っぱさが加わり、よりわかりやすい美味しさになる。いい。それにより、辛さもきりっと引き立つ感覚がまたいい。 そして最後に、生玉子を崩して混ぜる。 実を言うと僕は、カレーに生玉子をトッピングすることに対しては、かなり"否"寄りの考えを持っている。なぜならば、温度がぬるくなるから。そしてまた、味がぼやけるから。 ところが自由軒のカレーには最初から生玉子がのっている。否定している場合ではない。意を決して混ぜ、食べてみて驚いた。ものすごく合うのだ。黄身のまろやかさがさっぱりとしたカレーによって引き立たされ、また、白身のどろっと感が、最初から混ざっているカレーにさらに混ざってしまうので、まったく気にならない。むしろ食感が良くなる。これは、長いカレー好き人生においても新体験と言えるかもしれない。さすが、長く人々に愛されてきたことはあるな。 自由軒のスタートはそもそも、大阪で最初の西洋料理店だったのだそう。特に人気のメニューだったのがカレーライスで、しかし時は明治。今のようにごはんを保温しておく炊飯器のような設備がない。そこで創業者の吉田四一氏が、「いつでもお客様に美味しいカレーを食べていただきたい」という思いから考え出したのが、提供のたびにカレーソースとごはんを炒め合わせる独自のスタイルだった。その上に生玉子をのせたのも吉田氏のアイデアで、当時玉子は高級品だったから、味と人気の両面で、一躍人気メニューとなっていったのだとか。 そんな歴史を守り続けた伝統のカレー。さすがの貫禄と、庶民が気軽に味わえる洋食の良さの両方を兼ね備えた、他にはないひと皿だった。カレー道はどこまでも深い。 取材・文・撮影/パリッコ
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