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『半沢直樹』特大ヒットの背景にあったもの 堺雅人の「倍返し」を支える同期と家族

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リアルサウンド

 平成のドラマ史上最高となる視聴率42.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した『半沢直樹』。待望の新シーズンを前に2回にわたって放送された『半沢直樹 特別総集編』後編で、半沢直樹(堺雅人)が戦う場所は東京中央銀行の本丸、東京本部である。営業第二部の次長として栄転した半沢は、頭取の中野渡謙(北大路欣也)から老舗ホテルの担当に命じられる。大阪西支店で5億円を回収した半沢の手腕を見込んでの抜擢だった。  運用失敗で120億円の損失を出した伊勢島ホテルに東京中央銀行は200億円を融資。折り悪く金融庁検査が予定されており、損失をカバーする経営再建策の立案に加えて、半沢は、運用失敗の事実を隠す銀行内の勢力も敵に回すことになる。また、顧客企業内の対立を利用して頭取の椅子を狙う常務の大和田暁(香川照之)は、半沢の父・慎之助(笑福亭鶴瓶)への融資を打ち切り、自殺に追いやった当時の担当者だった。伊勢島ホテルの再建をめぐる駆け引きは、半沢と大和田の直接対決の様相を呈する。  銀行の内と外に敵を抱える半沢の状況はまさに四面楚歌。絶体絶命の状況で戦い続ける半沢のタフネスに驚嘆するが、それを支えているのが「倍返し」の精神だ。倍返しについては、ただ「やられたらやり返す」だけでなく公平性の観点もある。法律上の倍返しは、契約解除の際、両当事者が同じだけの金額を相手に支払うことを意味しており、行動経済学でも、人間は何かを得た場合よりも失った場合に倍以上のダメージを感じると言われる。倍返しの意味は不正を糾弾することにとどまらない。  後編でクローズアップされたのが、同期また家族との絆だ。いわゆるバブル入行組の渡真利忍(及川光博)と近藤直弼(滝藤賢一)は、半沢と腹蔵なく話ができる関係。情報通である渡真利は、大阪西支店の裁量臨店で抜き打ちの持ち物検査を先導し、病気休職を経てタミヤ電機に出向した近藤は、大和田の妻に対する迂回融資の証拠をつかむ。結局、近藤は銀行への復帰を持ちかけた大和田に折れてしまうのだが、「近藤を切り捨てろ」という大和田の提案を半沢が拒否する場面はドラマオリジナルのシーンだ。  妻の花(上戸彩)について言えば、大阪時代から上司の妻たちと情報交換し、大和田派の一角である岸川慎吾(森田順平)を切り崩す事実を聞き出した。疎開資料を捜索に来た金融庁の職員に啖呵を切る姿に、留飲を下げたのは筆者だけではないだろう。原作での夫の仕事に無頓着な妻のイメージを膨らませ、魅力的なキャラクターに変えている。これらの同期や家族が倍返しを支えている。  典型的な上意下達の組織である銀行で胸のすくような倍返しを見せる半沢に、多くのサラリーマンが自身を重ね合わせたことだろう。元銀行員である池井戸潤原作のストーリーは企業の実像を捉え、大胆不敵な主人公はしがらみや組織の旧弊に悩む視聴者のジレンマを一刀両断した。ビジネスドラマと聞くと、経済成長を前提にしたサクセスストーリーが多い中で、平成不況下の実情を融資する側の視点から余すところなく描いたことが、『半沢直樹』特大ヒットの背景にある。  金を前にするとその人間の本性が出る。大和田や金融庁の黒崎駿一(片岡愛之助)の常軌を逸した狂態は、金の魔力に狂わされた人間の姿とも言える。翻って半沢はどうだろうか。取締役会で大和田を公然と追及した半沢の胸中には、「晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」銀行への義憤があった。その半沢に中野渡から下された辞令は、東京セントラル証券への出向。不正を暴く半沢の前に最後に立ちはだかったのは、清濁併せ呑む組織の論理であり、「やられたらやり返される」という厳しい現実だった。突きつけられた問いに半沢はどんな答えを出すのか。7年越しの倍返しはもうすぐだ。

石河コウヘイ

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