言うことを聞かない、故意に人を苛立たせる…一教室に4~5人は存在する「ADHD」は「発達障害」なのか?
言葉が幼い、落ち着きがない、情緒が不安定。 育ちの遅れが見られる子に、どのように治療や養護を進めるか。 【写真】成人の臨床で「発達障害の診断」が明らかに増えている「納得の理由」 講談社現代新書のロングセラー『発達障害の子どもたち』では、長年にわたって子どもと向き合ってきた第一人者がやさしく教え、発達障害にまつわる誤解と偏見を解いています。 ※本記事は杉山登志郎『発達障害の子どもたち』から抜粋・編集したものです。
注意欠陥多動性障害(ADHD)とは
注意欠陥多動性障害は、多動、不注意、衝動性を三大症状とする。この3つ以外には、不器用な者が多いこと、知的な能力に比べて学力の遅れが生じる者が多いことなどが主な症状として知られている。 また成長するとしばしば一緒に認められるのは情緒的なこじれであり、その主なものは反抗挑戦性障害という診断名で呼ばれる。これは名前だけ聞くとぎょっとするが何のことはない、大人の言うことを聞かない、挑発を繰り返し周りの人間に対して故意に苛立たせる行動を繰り返すなど、どの中学校にもそして最近は小学校にもいる、反抗的で生意気な子どもたちのことである。 そもそも子どもは多動な存在である。3歳児と5歳児と7歳児とを比較すれば、年齢が幼いほど集中力の持続は短く、落ち着きもない。ADHDの多動を主とする症状は、成熟の遅れととらえるべきものが多くを占めていて、いわば7歳の子どもが3~4歳の行動コントロールの能力であるというときに、ADHDと診断することになる。 ある地域やある学校の子ども全部を対象として、一斉に評価尺度などを用いて多動児のチェックを行うといったスタイルの調査では、しばしば10パーセントから20パーセントが陽性という高い値となる。しかしそのすべてが不適応を生じているわけではない。三症状をはっきりと示す者の中で治療を要する適応障害に至るものは、半分から3分の1程度に過ぎないのである。 これに加えて年齢という要素がある。多動児の割合は小学校と中学校とでは著しく異なってくる。それは年齢によって多動などの症状が著しく変化するからであり、多動そのものは小学校高学年を過ぎると著しく軽減してくる。 さらに許容される多動のレベルは、国や文化によって実は大きな違いがあり、ADHDの罹病率が国で大きく違うのは、この文化の差によるところが大きい。これまで世界のさまざまな調査で、ADHDを呈する子どもの割合が大きく違う(信じがたいことに0.1パーセントから20パーセントを超えるものまである)のはこれらの事情が絡んでいる。