「世界一勤勉」なのに、なぜ日本人の給与は低いのか
先週、SNSで「日本は韓国よりも貧しくなった」という文春オンラインの記事が大きな話題になった。 【画像を見る】日本人の平均年収は? 世界ランキング OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、2019年における日本人の平均年収は3万8617ドル。米国(6万5836ドル)、ドイツ(5万3638ドル)など先進国から大きく下回っていることはいつものこととして、なんとお隣の韓国(4万2285ドル)にまで抜き去られてしまったと紹介したこの記事は大きな反響を呼び、Twitter上では「韓国以下」などの文言がトレンド入りを果たしたほどだった。 韓国といえば、いまだに財閥支配が強いように、日本人がドン引きするほど強烈な貧富の差があることで知られている。若者の失業問題も日本以上に深刻で、18年から最低賃金を引き上げたら失業者が増えたとか、コロナ禍で1999年の統計作成以降、最多の失業者数となったなんてニュースもあった。 そんなシビアな経済環境にいる韓国人より、実は日本人のほうがおしなべると「貧しい」と言われても、すぐに受け入れられない人も多いだろう。なかには「こんな調査はデタラメだ」「日本の豊かさは数字で測れるものではない」などと現実逃避をしてしまう方もいらっしゃるかもしれない。 ただ、残念ながら、これは為替や物価の影響をすべて考慮した購買力平価を用いたドル換算の調査なので、シンプルに各国の賃金の高さを示している。もちろん、先ほども触れたように韓国経済も問題山積なので、「賃金は低くても韓国よりはマシだ」なんて感じで屁理屈をこねて自尊心を保つことはできる。しかし、それでも「日本が貧しい」という事実自体は動かしようがないのだ。
「変わらない」ほうが居心地がいい
そこでやはり気になるのは、なぜ日本がここまで貧しくなってしまったのかということだ。 ご存じのように、日本経済低迷の原因については、長引くデフレ、消費増税、人口減少、さらにはアベノミクスが失敗だったとか、もっとさかのぼって小泉改革がよくなかったなど、さまざまな分析がなされている。どの説についてもそれなりの根拠があり、それなりに納得できる内容だ。 ただ、あらゆる原因に影響を与えている本質的なところでは、日本人が自他ともに認める「世界一の勤勉さ」がかなり罪深いのではないか、と個人的には考えている。こんな発言をすると、ご立腹の方もいらっしゃると思うが、「日本人の勤勉さ」は世界に誇るべき美徳であることになんの異論もない。 ブラック労働だなんだと言われても、与えられた仕事をきっちりこなすために残業や休日出勤も辞さない。そんな勤勉な労働者が日本経済の土台を支えているのも紛れもない事実だ。 が、一方で勤勉さや真面目さには大きな副作用がある。決められた仕事を忠実にこなすことや、命じられたことをコツコツと続けることは得意だが、頭がコチコチなので何か問題が発生した際に対応を変えられない。柔軟な姿勢でルールや規則を根本的に見直したり、これまで長く続けてきたことをスパッと止めたりすることができないのだ。 例えば、コロナ禍になってから「これからはテレワークだ!」と数カ月くらいは大騒ぎしていたが結局、今は電車には通勤するビジネスパーソンが山ほどいる。「いよいよ日本もDXの波がきた!」という言葉はよく聞いたが、いまだに紙の書類にハンコを押し、紙の領収書をペタペタと貼って経費精算している企業が日本中にたくさんある。 なぜこうなってしまうのかというと、日本のビジネスパーソンが勤勉だからだ。これまでのルールを過剰なくらいに真面目に守ってきて問題がなかったので、急に「こっちのほうがいいですよ」と言われても簡単にシフトできない。むしろ、新しいシステムを導入すると、みずほ銀行のATMのように大きなトラブルが発生することもあるので、「変わらない」ほうがリスクが少ない。勤勉でマジメな組織人ほど「何かあったら誰が責任を取るのだ」なんて感じで、改革より現状維持を選びがちなのだ。 そんな「世界一の勤勉さ」の副作用が、日本をじわじわと貧しくしているのではないか、ということが言いたいのである。この負のスパイラルがもっとも強烈に、もっとも露骨に出てしまっているのが「日本の産業構造」だ。