tofubeats、4年ぶりのアルバムと初の書籍を語る「耳が聞こえなくなった時に、鏡が気になるなって」
アルバム単位で言えば実に4年ぶりとなるtofubeatsの新作『REFLECTION』が素晴らしい。全16曲、1曲ごとの個性とメッセージを持ちながらも全体の連続性が大きなひとつの物語となって迫ってくる。 制作期間にコロナの日々も内包したこの作品は、まさに彼が日々考え、思い巡らせていたことが音楽として描かれている。そこには、同時期に彼が日記を書き続けたということも大きく関係しているのだと言う。 アルバムと同日、5月18日(水) に発売となる『トーフビーツの難聴日記』の記述にも基づきながら、5枚目のアルバムの中身についてtofubeatsに話を聞いた。 【全ての写真】tofubeatsの撮り下ろし写真(全16枚)
〈鏡 / 反射〉というテーマを掘り下げた最新作
――今回のアルバム『REFLECTION』のテーマとなっている〈鏡 / 反射〉というのは、日記の記述によると2019年3月時点からあるものなんですよね。 そうですね。 ――最初は無意識なものとして、それがだんだん定着していく過程がこの3年間だったと思うのですが、振り返れば〈鏡 / 反射〉というテーマはどのようなものとしてあり続けたのでしょうか? そもそも耳が聞こえなくなった時に、鏡が気になるなって思ったこと自体に意味があるなって感じたんですよね。じゃあなんで自分が鏡に意味があると感じたのかっていうこと自体をアルバムのテーマにしようと思ったんです。 だからどっちかって言うと鏡をイメージして曲を作るぞっていうよりも、なんで自分が鏡をイメージしたのかを見つけようっていう感覚でした。それは終始一貫して変わらずあって、できてくる曲やアートワークを見て、そこから“なるほどな”って思う部分や謎のままの部分もあったりして、おじさんの自由研究みたいな感じでした(笑)。 ――ああ、なるほど。じゃあ鏡というもの自体が入り口となって様々なものに派生していったという感じだったんですか? と言うよりも、鏡というものにそれまでほとんど興味がなかったのに無意識でもそれが気になるっていう事実自体は動かないものとしてあり続けたので、その違和感に対する探究をゴールに考えようということにブレはなかったですね。 ――結果ここまでひとつのテーマが長くあり続けたというのはどうしてだと思いますか? それはもうラッキーな部分があって、だいたいこういう自分の試みって失敗するんですけど(笑)。今回に関してはコロナもあって、まあ怪我の功名じゃないですけど、いい意味でこのテーマを増幅させる出来事が多くて、自分なりに飽きずに続けられたというのはありましたね。 ――ジャケットのアートワークが2019年3月に福岡のビジネスホテルで自撮りしたものが元になっています。なんだか見れば見るほど不思議な絵に感じます。 しかもなんでインカメで撮ってるのかが謎なんですよね。いかに動揺していない風を装って本当は動揺してたかっていう(笑)。 ――1曲目の「Mirror」はまさに反射というテーマに沿って、増幅、増殖といったイメージの曲ですが、《オーケーです》という機械音は駐車場のサンプリングなんですよね。 都心のとある駐車場で録音しました。駐車場の機械がぶっ壊れてて、作業員の方たちが5、6人で原因を調べたりしてたんです。朝だったんで客は僕だけで、誰も気にしてないのでレコーダーを回しました。 ――それを採集できたことで一気に曲のイメージが見えた? そうですね。なんで見えたのか?と言われたらそれをなんと説明したらいいか難しいんですけど、ただ全然オーケーな状況じゃないのに《オーケーです》って延々繰り返してるのがとても面白くて、ひとりでツボに入ってたんですよ。 ――「Mirror」の歌詞の中に《自分の知らない自分》という言葉があるのですが、〈鏡 / 反射〉というテーマには自分自身を見つめることが含まれると思います。tofubeatsさんにはDJ、サウンドプロデューサー、そしてアーティストといった顔がありますが、特にこの2年間で言うとDJの比率はグッと下がりましたよね。そこが今回のアルバムに影響した部分というのはありますか? それはすごくあると思いますね。DJの現場をあまり意識せず制作したので、ライブっぽい曲が少ないなあって改めて感じてます。大勢の前でかけるということを全然想定していなかったというか、そういう変化は如実に全編にわたってありますね。 ――いい意味でそこが作用したという側面もありますよね? そうですね。このアルバムでやったようなことを思いっきりやれる時代が今から先にあるのかなって考えたら、老後とか、あとは本当に耳がダメになった後とかになるんだろうなって思ったりしたので。今の年齢でこういうテイストの作品を1枚作れたということは貴重だし、置いておく意味があるなと思ったんですよね。もちろん一生懸命クラブっぽいものを作ることも可能だったんですけど、逆にせっかくこの状況だしっていう感じも結構あったと思います。 ――もうひとつ大きな変化で言うと、生活の拠点を神戸から東京に移されましたよね。『REFLECTION』全編を通して感じるのは、平坦な都市の中を散歩しているようなイメージなんですけど、この拠点の変化は作品に影響を与えましたか? いやそれが、スタジオができたとかっていうツール的な変化は感じるんですけど、地理的な変化をあまり感じなかったっていうのが正直なところなんですよ。 だからフィールドレコーディングとかで自分の中で強引に東京と結びつけようとしているというのは感じるなぁっていうのは出来上がったアルバムを自分で聴いて思うことですね。 神戸にいる頃は、自分は神戸にいるんだっていう気持ちでどんどん作って、それが神戸のものとして世に出されて、という感じでぐるぐる回っていたんです。 だけど東京というのは自分のルーツがそこにあるわけじゃないし、東京に来たメリットとして想定していた横のつながりだとか、DJがめっちゃできるとか、そういうのがコロナで一切なくなって。自分の思っていたメリットがほぼなくなった状態で東京にいるので、逆にそこがもしかしたら変化として現れているということなのかもしれないですね。 フィールドレコーディングなんかで無理やりくっつけたら何か出てくるものがあるんじゃないかとか、そういう意識はもしかしたら作品に影響しているかもしれません。 ――全体的に漂うそこはかとない都市感というのはそこから出てきたものだと思いますか? ドライな感じはありますよね。やっぱり他人と関わっている量が極端に少ないというか、今回コラボしている人で言うと中村(佳穂)さんくらいしかお会いしていないですし、Neibissもアルバムができてからはちょっと会ったんですけど作っている間は一切会ってなくて。 ――Zoomなどでやり取りして共作されたんですか? 基本はそうですね。でもNeibissに至ってはZoomすらやってないんじゃないですかね(笑)。今回は人と直接密にやり取りすることがあまりなかったので、そのあたりが全体の雰囲気に出ているのかもしれませんね。