冨士眞奈美「70代半ばで車の免許を自主返納。昔は黄色のカマロで娘を連れまわしていたのに、今やすべての主導権は娘に」<冨士眞奈美×岩崎リズ>
◆今さら自由を手放したくない リズ そう言われるのも心外だけど、ママが80代になってからはそれこそ心配なことだらけ。連絡がつかないと、何かあったかもしれないって不安になる。 冨士 そのときはそのときよ。 リズ もう10年以上前になるけれど、携帯も家の電話もつながらなかったことがあった。慌てて家に駆けつけて、隣の家の人に手伝ってもらいながら、ドアのチェーンをなんとか外して。そうしたらママは何をしていたか覚えてる? トイレでのんびりくつろいでいたの。 冨士 便座が温かくてすごく気持ちいいのよ。電気代もさほどかからないし。 リズ はあ……。心配だからと言って、一緒に暮らすのは絶対にムリ。3階建てにモノが山ほどあふれているあの家に戻ったら、喘息の発作が止まらなくなっちゃう。 冨士 私も無理ね。同居したら、毎日叱られなきゃならないもの(笑)。あなたのご飯も作らないといけないでしょう。 リズ 食事の支度くらい自分でできますよ。とにかく、私たちは性格も趣味もライフスタイルもまったく違うから、同居しないのがお互いのためだと思う。 冨士 私は6人きょうだいの中で揉まれて育って、独身時代はずっと家族と同居。結婚して夫と、離婚後もあなたと暮らしてきた。念願のひとり暮らしがようやくかなったのは、あなたが独立してから。今さら、この自由を手放したくないわ。 リズ それは同感。数年前にママが骨折して私の家に泊まってもらったときも、キツかった。「退屈」と言うから映画を見せたら「つまんない」って途中で寝るし、明け方までかりんとうをかじりながらテレビでスポーツ中継を見ているし。そんな生活、私には耐えられない。 冨士 お互いに、今くらいの距離感がちょうどいいのよね。
リズ ただ、私の希望としては、もっとコンパクトなマンションに引っ越してほしい。トイレが4つもある3階建ての一軒家にひとりで住んでいるのは無駄だし、近頃は独居老人を狙った強盗事件も多いでしょう。その点、セキュリティがしっかりしているマンションなら安心だから。 冨士 でも、この歳で引っ越しなんてしたら疲れて死んじゃうわよ。その前に、家の中のゴミを減らさなきゃならないし。 リズ 10年前から断捨離を勧めているけどね。カビの生えた本や私の趣味とは違う洋服、アクセサリーの山を残してもらっても、処分に困るだけです。 冨士 ひとりじゃ無理よ。ひとつひとつに思い出があるから。あなたは口ばかり出して、何も手伝ってくれない。 リズ いっそ鉄球で家を根こそぎぶち壊して、更地にしちゃえばいいと思う。(笑) 冨士 それなら私だって、独身でひとり暮らしのあなたのことが心配だわ。「他人の歯ブラシが同じコップに入っているのは耐えられない」と言うくらいだから、結婚は無理かもね。でも、別居でいいから大親友になれるパートナーを見つけてほしい。 リズ そんなこと言われても。私が子どもの頃から「何より怖いのは人間だ」「どんな人間も疑え」と言ってたのはママだよ。 冨士 だから私は離婚して、ちゃんとひとりで生きてきたんでしょう。 リズ そんなママの姿を見て育ったから、今さら結婚とか考えられない。少し前に、「毎朝の『生存確認』の習慣が突然途切れたら、あなたが喪失感に襲われるかもしれない。だから電話するのをやめようと思う」って言ってきたことがあったよね。でも、うちには猫と犬もいるし、独身の女友達とビデオチャットでおしゃべりしているから大丈夫。 冨士 そうは言っても、私が死んだら寂しいと思うわよ。まあ、埃をかぶったモノだらけの家を残して逝くから、片づけに追われて感傷に浸っているヒマはないかもしれないけどね。(笑) (構成=内山靖子、撮影=川上尚見,曾根雄司)
冨士眞奈美,岩崎リズ
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