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書評家が紹介する、“食”にまつわる作品6選 椰月美智子『純喫茶パオーン』楡周平『食王』ほか(レビュー)

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Book Bang

驚くほどの暑さです。こんな時期は、涼しい部屋で、冷たい飲み物片手に、ゆっくり本を読みましょう。ついお菓子も摘まみたくなるような、“食”にまつわる作品をどうぞ!   ***  コロナでバタバタしてるうちに花見もできず春が終わり、季節感を味わう余裕もなかったなあと思っていたら、打って変わって梅雨は驚くほどの豪雨、梅雨が明けたら殺人的な暑さと、いやいやそこまでの季節感は望んでませんから!   もっと風情ある季節感をプリーズ!   ということで今月は、最も季節感を味わえるもの──食べ物に注目して新刊をご紹介。料理そのものがテーマでなくとも、印象的な食の場面が出てくる作品は意外と多いのだ。  まずは加納朋子『二百十番館にようこそ』(文藝春秋)から。就職活動につまずいて以来、実家暮らしでネトゲにはまるニート生活を送っていた俺。堪忍袋の緒が切れた親から「もう面倒はみない」と通告され、伯父の遺産だという離島の建物でひとりで生きていくはめに。高齢者ばかり二十人足らずの島の住民、不便な流通、厳しい自然。生活のため、元は会社の研修センターだったというその建物を利用し、ニート専用シェアハウスを営むことにしたが……。  離島に集まったニートたちの、それぞれの事情と変化を明るく、そして優しく描いていく。人から否定されることを過剰に恐れたり、コミュニケーションが苦手だったり、人との距離感がわからなかったり、過去の傷を抱えていたりという彼らが、島の中で少しずつ「できなかったことができるようになる」過程がとても力強く、ついつい前のめりになって応援してしまった。  ニートが社会を知るという設定は決して目新しいものではない。なのにぐいぐい読まされてしまうのは、離島という舞台の巧さだ。高齢者ばかりという環境の中で教えられることが多い一方、若者が手助けできることも多々ある。世代を超えてコミットすることの面白さと奥深さ。さらに、ミステリ作家らしいちょっとした謎と感動的な謎解きが、本書の大きな魅力だ。  そして何より、島メシの美味しそうなこと!   おばあちゃんたちが作ってくれる魚料理はもちろんのこと、猪肉を焼いたりカレーにしたり。ニートたちが入手可能な材料であれこれ工夫して作るくだりもとてもいい。ラーメンスープの再利用に萌えまくったぞ。  冬森灯『縁結びカツサンド』(ポプラ社)は駒込の商店街にある昔ながらのパン屋さん「ベーカリー・コテン」に集う人々の人間模様を描いた連作短編集だ。創業者である祖父のようなパン屋になれるのか悩む三代目、婚約者と急に連絡がとれなくなったOL、就活がうまくいかずに焦る大学生、ある人をずっと探し続けている小学生。常連客の怪しい占い師や、合気道ができるバイトの女の子、その兄である肉屋の息子もいる。賑やかで楽しいことこの上ない。  彼らが悩んでいるとき、落ち込んでいるとき、コテンのパンに励まされたり助けられたりする。そこで助けられた人が、また別の人を助ける。パン屋の三代目もまたお客さんに助けられ、店主として成長していく。人がつながっていく様子は、商店街という舞台もあいまって「地縁」という言葉を思い出させてくれた。  もちろん全編に美味しそうなパンが目白押し!   昔ながらのパン屋さんだけあってそのラインナップもドーナツにチョココロネ、カレーパン、カツサンドという王道ぶりだ。読んでる途中でもうカレーパンを食べたくて食べたくて。

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