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「金欠」サウジが原油相場を攪乱か

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【藤和彦の眼】中国5月の原油輸入が過去最高、米国の需要は鈍い

 米WTI原油先物価格は6月7日、3ヶ月ぶりに1バレル=40ドル台となり、その後も40ドル前後での推移が続いている。  4月20日に1バレル=マイナス40ドルと急激に落ち込んだ後、1カ月半で同80ドルも上昇したことになるが、その上昇速度はかつての石油危機の時をはるかに凌駕している。  ここで足元の需給状況を確認してみたい。  OPECとロシアなどの産油国からなるOPECプラスは、6日に会合を開き、6月末までとされていた協調減産の規模を7月末まで継続することで合意した。  協調減産の枠組みに加えて、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウエートが3カ国で合計日量118万バレルの追加減産を5月から行っていたが、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は8日、「目的を達成した」と述べ、6月末に終了することを明らかにした。  OPECの5月の原油生産量は前月比591万バレル減の2477万バレルとなり、2002年以来の低い水準となった。  ロシアの5月の原油生産量は前月比193万バレル減の日量942万バレルとなったが、国営大手石油会社ロスネフチは「一部の顧客の需要が強く、減産困難」として、政府に対し強く増産を求めている。(5月28付ロイター)  OPECプラスは、8月から12月までの間は日量770万バレル、来年1月から再来年4月にかけて同580万バレルの減産を行う予定である。若干の変化は見られるものの、7月以降もOPECプラスは5月からの協調減産の枠組みを維持する構えである。  世界第1位の原油生産国となった米国では、シェール企業の苦戦が続いている。  石油掘削装置(リグ)稼働数は206基と3月上旬に比べ7割減少し、11年ぶりの低水準となった。米国の足元の原油生産量は、ピーク時から200万バレル減少して日量1110万バレとなった。6月のシェールオイル生産量は前月比20万バレル減の日量782万バレルとなり、年末までに同500万バレルを下回る可能性がある。  原油価格の上昇により一部のシュール企業が生産再開の動きを示しているが、大半の企業は1バレル=45ドルの水準に戻らない限り生産は回復しないとされている(6月7日付OILPRICE)。今年に入ってからシェール企業17社が破綻している(6月5日付フィナンシャルタイムズ)。各企業は生き残りをかけてリストラに躍起となっている。  原油価格をマイナスに押し下げた原油貯蔵施設のキャパシテイ問題については、内陸部の企業がパイプラインを利用してメキシコ湾岸に原油を運んで輸出するという流れが確立され、そのリスクは解消されたようである。  一方、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で大きく落ち込んだ世界の原油需要はどうなっているのだろうか。  明るい材料は中国の原油需要が急回復していることである。  中国の5月の原油輸入量は前月比151万バレル増の日量1134万バレルと過去最高を更新した。国内の原油需要はパンデミック以前の90%強(約1300万バレル)にまで回復したとされている。  対照的なのは米国の原油需要である。パンデミック以前に日量2200万バレルだった原油需要は1400万まで落ち込んだ後、その後の回復は1700万バレル台にとどまっている。今後暴動の悪影響も出てくる可能性もある。  国際エネルギー機関(IEA)は5月25日、「世界の原油需要がパンデミック以前に戻るには数年かかる」とする弱気の見通しを明らかにしている。  これに対し、ロシアのノバク・エネルギー相は4日、「OPECプラスの協調減産に加えて、急激に減少した世界の原油需要が急回復していることから、世界の原油市場は7月に日量300万バレル超の供給不足になる可能性がある」とする強気の見方を示した。  市場では「第4四半期に1バレル=60ドルに上昇する」との声も出始めているが、これまで強気の姿勢を示していたゴールドマン・サックスは8日、「今後しばらくの間弱含みで推移する」との予測を出した。今年前半に積みあがった世界の原油在庫の調整に長期間を要するからである。  原油価格の今後を占う上で鍵となるのはやはりサウジアラビアである。  3月上旬にロシアとの協議が決裂するやいなや、世界市場のシェア確保のための価格戦争を仕掛けたサウジアラビアは7日、「7月の原油販売価格を大幅に引き上げる(バレル当たり最大7.3ドル)」ことを発表した。3ヶ月という短期間で180度の方針転換をしたわけだが、極端なカネ不足に陥ってしまったことがその背景にある。  サウジアラビア政府は4日、「10日から数百に上る輸入品(肉類、野菜、化学製品、車両、建築資材)の関税を0.5%から15%へ引き上げる」と発表した。輸入関税の大幅引き上げにより輸入インフレが生じ、生活必需品の大半を輸入に頼るサウジ国民の家計に大打撃に与えるのは確実である。  サウジアラビア政府は7月から付加価値税を5%から15%に引き上げることになっており、付加価値税導入時に実施された貧困層への生活支援金は6月から廃止された。  通貨安による輸入インフレを防止する観点から、サウジアラビア政府は通貨リアルを米ドルにペッグしているが、この制度を守るために不可欠な外貨準備が大幅に減少している。  中央銀行の外貨準備から400億ドル分を3月から4月にかけてパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)の投資原資として充当したからである。  PIFは、ムハンマド皇太子が自由に活用できる実質上の個人資産(1000億ドル規模)であるが、そのPIFも相次ぐ投資の失敗のせいでカネがないのである。  国庫が「火の車」となっても、軍事費は一向削減されない。軍事費はGDPの8%を占め、金食い虫となっているイエメンへの空爆作戦も続いている。  5月31日付アルジャジーラは「サウジ王族3人を含む18人のメンバーがムハンマド皇太子打倒を目指す反対派連携評議会を結成した」と報じた。  ムハンマド皇太子に代えて、3月に拘束されたサルマン国王の弟であるアハメド元内相を皇太子に据えることを目指すとしているが、国際世論の形成や米国などへのロビー活動にとどめ、武力行使は求めないとしている。  しかしこの宮廷革命の動きに政府の失政に怒る民衆が同調すれば、サウジアラビアで大量の血が流れないとの保証はない。  このようにますます不安定化しているサウジアラビア情勢が、原油価格の今後の動向を大きく左右すると筆者は考えている。 ■藤 和彦(経済産業研究所上席研究員) 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣参事官)。2016年から現職。著書に『原油暴落で変わる世界』『石油を読む』ほか多数。

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