尹大統領の弾劾案を可決、韓国国会 職務停止で首相が代行
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案の2回目の採決が14日夕、国会であり、在籍議員300人の3分の2以上の賛成で可決された。韓国メディアによると現地時間午後7時24分、韓国大統領府が弾劾訴追議決書を受理し、尹大統領の職務が正式に停止された。韓悳洙(ハン・ドクス)首相が大統領の職務を代行する。今後、憲法裁判所が最長180日かけて弾劾の妥当性を審理し、裁判官9人のうち6人以上が弾劾を支持すれば大統領は罷免される。 弾劾訴追議決を受けて尹大統領は国民向けの談話を出し、「自分の旅路を一時的に止める」と述べた。「私は今は立ち止まるが、この2年半、国民と共に歩んできた未来への旅路は決して立ち止まってはいけない」、「私は決して諦めない。私への批判、激励、声援を心に受け止め、この国のために最後まで最善を尽くす」と話した。談話を読み上げる姿は、テレビ中継された。 尹氏はさらに、「全ての公職者に呼びかける。今は難しく厳しい時だが、しっかりと役職にとどまり、自分の力の限り公務をきちんと果たしてもらいたい。大統領代行を中心に、協力し合い、市民の安全と幸せを守るために最善を尽くしてもらいたい」と呼びかけた。 政界関係者に「政治の文化や仕組みの改善に注力してもらいたい。無謀な対立の政治から、熟議と配慮の政治に変われるように。この変化に必要な努力と注意をお願いする」と呼びかけたほか、国民には「この国の人たちの力を信じている。自由と民主主義と韓国の繁栄のため、全員の努力を結集させましょう」と促した。 ■与党の一部議員も賛成 国会は午後4時(日本時間同)ごろに本会議を開き、弾劾訴追案の採決に入った。全議員が投票し、賛成204票、反対85票で可決された。棄権3票、無効8票だった。 可決には議員200人以上の賛成が必要だった。これを満たすには、野党の全議員192人に加え、与党「国民の力」の議員8人以上が賛成に回る必要があった。投票は無記名で行われた。 与党議員の一部は、あらかじめ賛成する意向を表明していた。 投票の直前には、最大野党「共に民主党」の朴贊大(パク・チャンデ)院内代表が議案を説明。「12月3日午後10時半に民主主義の心臓が止まった」とし、「尹錫悦の弾劾こそ憲法秩序を回復する唯一の方法だ」、「弾劾することで民主主義が機能していると、世界に示さなくてはならない」と議員らに訴えた。 禹元植(ウ・ウォンシク)議長が可決を宣言すると、最大野党「共に民主党」など野党側からは歓声が沸き起こり、与党「国民の力」の議員らは静かに議場を後にした。 ■抗議集会の参加者らが歓喜 弾劾訴追案が可決されると、国会前の道路を埋め尽くした抗議集会の参加者らから大きな歓声が上がった。歌を歌う人や、花火を打ち上げる人もいた。投票が進められていた最中には、「尹を弾劾しろ!」、「弾劾案を可決せよ!」といったかけ声が続いていた。 参加者のシム・ヒセオン氏(40)は可決後、涙をぬぐいながら、「本当にうれしい」、「闘いはまだ終わっていない。 弾劾が確定するには裁判所の判断を待たなくてはならない。私たちはしっかり見続けていく」と話した。 リ・センバン氏(77)は拳を突き上げ、涙をこらえるように、「今日から韓国の政治はよくなる」と述べた。 別の場所では尹氏を支持する集会も開かれていたが、弾劾訴追案の可決が伝わると、静かになった。怒りの言葉を発し、立ち去る人もいた。30代の女性は泣きながら、国が心配だと話した。 尹氏に対する弾劾訴追の動きは、尹氏が3日夜に突如として非常戒厳を宣布したことをきっかけに始まった。尹氏は宣布の約6時間後、国会の要求に従って非常戒厳を解除した。 「共に民主党」などは、これを「内乱行為」と非難。野党6党で4日、尹氏の弾劾を求める弾劾訴追案を国会に提出し、7日に1回目の採決が行われた。このときは、108人いる「国民の力」の議員が3人を除いて全員、投票をボイコットしたため、投票議員が定足数に達せず不成立となり、議案は廃案となった。 野党側は、尹氏を弾劾や辞任に追い込むまで弾劾訴追案の採決を続けると宣言。12日に改めて、弾劾訴追案を国会に提出し、この日の採決となった。 今後、憲法裁判所が弾劾を妥当と判断して尹氏が罷免された場合、政府は60日以内に大統領選挙を実施する。新大統領は新たに5年の任期をスタートさせる。 一方、憲法裁が弾劾は妥当ではないと判断した場合、尹氏は大統領の職務に復帰する。 聯合ニュースによると、与党「国民の力」はこの日、午前10時から議員総会を開き、投票への党としての対応を話し合った。意見がなかなかまとまらず、採決の直前の午後4時ごろまで続いた。議員総会の終了後、権性東(クォン・ソンドン)院内代表は記者団に、同党議員らが「党利ではなく良心と信念に基づいて」投票すると述べた。 尹氏に対しては、警察などが内乱の疑いなどで捜査を進めている。内乱罪の最高刑は死刑で、大統領の免責特権が及ばない。国会も調査を続けている。 尹氏は7日に演説し、非常戒厳について謝罪。一方で、野党勢力は危険であり、国民と民主主義を守るために非常戒厳を宣布したと主張した。 その後も公の場に姿を見せていないが、12日にテレビ演説で、改めて非常戒厳の正当性を主張。「弾劾されようが、捜査されようが、私は断固として対抗する」、「最後まで闘う」と宣言した。 非常戒厳の宣布とそれ以降の尹氏の対応は、国民の怒りを呼び、ソウルの国会前などでは連日、大規模な抗議行動が繰り広げられてきた。 尹氏の支持率は急落している。韓国ギャラップ社が13日に公表した世論調査によると、1週間前の13%から11%へと下落した。弾劾には、回答した成人1000人超の4分の3が賛成。尹氏の不支持率は過去最高の85%を記録し、半数以上が非常戒厳を不支持の理由に挙げた。 韓国では過去にも複数の大統領が弾劾されている。 2016年には、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する弾劾訴追案が可決された。収賄、国家権力乱用、国家機密漏洩に関わったとされた。のちに憲法裁判所によって罷免された。 2004年にも、当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が弾劾され、2カ月間、職務停止となった。しかしその後、憲法裁判所の判断で大統領に復帰した。 (英語記事 Live Reporting:South Korea MPs vote to impeach president after mass protests over martial law)
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