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【書評】つらいことがあったら話したい。でも誰も傷つけたくはない 『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

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婦人公論.jp

◆つらいことがあったら話したい たとえばの話、〈だれも傷つかないでいい、やさしさが社会に埋め込まれたもっともっと未来に〉生まれたかったという言葉をツイッターで発したりすると、「頭の中がお花畑w」みたいな揶揄を飛ばしてくる連中が大勢いる。でも、この定番の捨て台詞は思考停止にすぎない。じゃあ、そんなやさしい社会はどうしたら作れるのかと考えを発展させていく反応が建設的なのであり、バカにする態度は何も生みださないからだ。 そう思える人だけが、短篇が4つ収められている大前粟生(あお)の作品集『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の表題作を読んでほしい。主人公は冒頭の言葉の主である19歳の七森(ななもり)。大学に入学してすぐできた、大好きな友人・麦戸(むぎと)ちゃんが最近学校に来ないことを心配している。2人が所属しているのは、ぬいサー。つらいことがあったら誰かに話したほうがいいんだけど、もしかしたらその話が相手を悲しませてしまうかもしれないから、ぬいぐるみにしゃべることにしようというサークルだ。 女の子みたいな外見の七森は、高校時代、〈男子の輪から外れてしまわないよう〉、その場のノリに合わせて愛想笑いばかりしてきたことを後悔している。自分は男というだけで加害者なのではないかという思いに打ちのめされている。ジェンダーレスな関係でいられる麦戸ちゃんへの気持ちも不安定に揺れ動く。七森も麦戸ちゃんもやさしさゆえに残酷な世界に傷ついていて、自分もまた誰かを傷つけるのではないかという予感に打ち震えている。読んでいると胸が潰れそうになる物語なのだ。作者は他の3篇でも、生きづらさを抱える人の心に寄り添っている。大前粟生は、お花畑の住人だ。そのことが頼もしい。 『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』 著◎大前粟生 河出書房新社 1600円

豊崎由美

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