司書のコレ絶対読んで!「狐」新美南吉作、長野ヒデ子絵…私の子育てバイブル
愛媛県上島町と今治市の小中学校・塩見裕子さん
新美南吉といえば、教科書に取り上げられている「ごん狐(ぎつね)」で有名ですが、晩年に書いた「狐」の方が私のお気に入りです。キツネに取りつかれる物語は今の子どもには意外性もあって面白いと思いますが、実は保護者にこそ読んでほしい。主人公の母親が息子に誠実に向き合う姿が、私にとって「子育てのバイブル」になっています。 【画像】塩見裕子さん
主人公の文六は祭りの日に隣町でゲタを買い、町の人から迷信を吹き込まれます。「ゲタを夕方におろすとキツネがつく」。帰りの夜道で「コンコン」とせき込むと友達に気味悪がられ、最後は独りぼっちで帰宅します。
私のお勧めは親子2人の会話だけで進む後半部分。妄想が膨らんで眠れない文六に対し、母は「お母さんもキツネになる」と宣言し、親子ギツネの物語を語り始めます。ついには猟師に追われるはかない運命に一緒に涙し、文六は眠りに落ちます。
たわいのない不安や悩みであっても、子どもにはひたすら親に寄り添ってもらいたい時があります。幼い頃に実母と死別した新美が、母親の深い愛情に憧れていたように読み取れます。
25年前、母がこの絵本を買ってくれました。母はフルタイムで働きながら私を育て、親子の時間はあまりありませんでした。絵本を通じて理想像を託したかったのかもしれません。
私は専業主婦で、長女が小学校5年の時に読み聞かせボランティアになりました。学校には司書がおらず図書室の本の分類さえできていないことを知りました。50歳を過ぎて司書資格を取得し、学校司書になって3年目で、離島の小中学校も担当しています。どんな場所でも子どもたちが本に親しめる環境を作ろうと奮闘しています。(聞き手・浜畑知之)
学校の取り組み
瀬戸内海の離島からなる愛媛県上島町には公立図書館がなく、塩見さんが担当する小中学6校の図書室は本に触れられる貴重な場。今治市内の小学校も担当し、国語の授業に関連する絵本の読み聞かせをしている。
*街や学校の図書館で働く司書の皆さんに、オススメ本を紹介してもらいます。