カビによって米国でヘビが減っている? 外来種が原因か
コウモリでは鼻が真っ白になり死ぬ
このような野生動物に対する新興感染症は、ヘビ類だけの話ではありません。世界で猛威をふるう「カエルツボカビ症」は、日本でも10年ほど前に報道され話題になりました。日本で飼われていたペットの外国産のカエルで発症の初報告が2006年にあったのです。しかし、その後の研究で、「カエルツボカビ」については日本ではどうやら在来のもので、日本産のカエル類には害がなさそうだという報告がされ、国内の騒動は収束しました。 とはいえ、世界での脅威はまだ続いています。また、イモリ・サンショウウオの仲間に、カエルツボカビと同様に猛威をふるう「イモリツボカビ症」 が、2014年にヨーロッパで発見されています(詳しくはこちら)。
アメリカでは、ヘビカビ症のほかにカビが原因でコウモリに死をもたらす「コウモリ白鼻症」(原文ではWhite-nose Syndrome、筆者和訳)も問題視されています。水辺で昆虫類の捕食者として重要な役割を果たすカエル。同じく、蚊のような昆虫類の捕食者として重要な役割を果たすコウモリ。カエルがいなくなれば、例えば水田は虫だらけになり農作物に多大な被害が出ると言われています。コウモリがいなくなれば蚊やハエが増え、今度は人間の感染症が蔓延するかもしれないと考えられています。 このようにさまざまな動物種で、その動物にとっての感染症が蔓延し、野生動物種が次々と減っていけば、地球の生態系に大きな悪影響を与えることは説明するまでもありません。新興感染症問題は、もはや人類だけの問題ではないことをあらためて考えていかなければなりません。そして、繰り返しになりますが、何かの動物が絶滅して起こる悪影響を、我々の現代科学ではまだまだ解明できていないことも多く予測しきれないのです。 (※)外来種問題の事例については、THE PAGE連載 「終わりなき外来種の侵入との闘い」(国立環境研究所 五箇公一先生 執筆)に詳しい記事があります。 【主な参考文献】 Allender MC, Dreslik M, Wylie S, Phillips C, Wylie DB, Maddox C, Delaney MA, Kinsel MJ. Chrysosporium sp. Infection in eastern massasauga rattlesnakes. Emerging infectious diseases. 2011 Dec;17(12):2383-4 ----------------------------------------- ◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 大渕希郷(おおぶち・まさと) 1982年、兵庫県生まれ。京都大学大学院 動物学教室で動物学を学ぶ。上野動物園・両生爬虫類館の飼育展示係を経て2013年より現職。著書に『もしも?の図鑑 絶滅危惧種 救出裁判ファイル』(実業之日本社)など。2016年3月末で日本科学未来館を退職し、同年4月1日より、京都大学 野生動物研究センターの特定助教として、同大学の霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院の任務にあたる