1日にスピード違反2回! ミドルブリッジ・シミターGTE(2) 王室へピッタリのグランドツアラー
450か所以上の改良 走り出すと魅力が増す
ミドルブリッジ・シミターが製造したGTEは、リライアント時代から450か所以上の改良が施されている。ボディや内装の製造品質は、明らかに改善されている。凹凸の目立つアスファルトではリアハッチがきしむものの、耳障りなノイズはない。 パワーアシストは備わるが、ステアリングホイールは重い。駐車時に使う筋力を、僅かに減らしている程度だ。上級グランドツアラーが目指されていても、ビニールレザー張りのダッシュボードと相まって、水準には届いていない。 シートとアームレストに張られた、少し時代遅れだったベロア生地が高級さを感じる部分。英国王室が、豪華な車内だと呼ぶことはないだろう。レザーはオプションで用意されていたが。 シートは四角く、これもビニールレザー張り。クルーズコントロールは備わるものの、同時期のフォードの量産車と比べて、特別な印象は得にくい。 とはいえ、走り始めると魅力は増していく。重いステアリングは、高速道路での安定性へつながる。セルフセンタリング性が強く、真っ直ぐ突き進める。手のひらへ、不快なキックバックが伝わってくることもない。 ホイールベースが長く、ギア比はロング。高速巡航が得意分野といえ、同時期のロータス・エクセルやアルファ・ロメオGTV6に勝る。GTEのオーナーの多くは、高速道路での安楽さを特徴に挙げるが、筆者も理解できる。 V6エンジンはトルクが太く、変速は少なくて済む。スポーティな印象は薄いものの、ブレーキやクラッチペダルも扱いやすい。
王女のニーズを満たしたスポーツワゴン
グレートブリテン島の隅々まで、短時間に向かう用事の多かったアン王女には、適した能力をGTEは備えていた。主張が控えめな見た目も好ましく、彼女へ望ましいグランドツアラーだったとはいえる。 他方、注文を集められなかった理由もわかる。新車時の英国価格は2万4663ポンドで、エクセルやルノー・アルピーヌGTAなどより高価だった。 日本にも、優れたグランドツアラーやスポーツクーペが存在していた。トヨタ・スープラや日産フェアレディZ(300ZX)が、有能な選択肢として支持を集めていた。英国価格は近くても、遥かに速かった。 実用性では勝っていたが、同時期のクーペもリアハッチとリアシートを備えていた。BMW 325i ツーリングなど、有能なステーションワゴンも登場していた。英国製であることに強いこだわりがなければ、選択肢の上位にGTEが入ることはなかっただろう。 1980年代に妥当なアップデートを施さなかったリライアントだが、それを買い取ったミドルブリッジ・シミターは素晴らしい仕事を施した。究極のGTEに仕上がっていることは間違いない。王女のニーズを満たしていたことも。 同時に、生産終了を決めたリライアントの判断は正しかったともいえる。結果として、ミドルブリッジ・シミターは79台しか作っていない。 伝統的な英国製シューティングブレークの、最後を飾ったGTE。自ら創造したスポーツワゴン市場は、自らの手で幕が閉じられた。唯一といえる歴史を持つモデルではないだろうか。 協力:グレート・ブリティッシュカー・ジャーニー、ミドルブリッジ・エンスージアスト・シミター・セット、ミック・ゴーラン氏
ミドルブリッジ・シミター GTE(1989~1990年/英国仕様)のスペック
英国価格:2万4663 ポンド(新車時)/2万ポンド(約400万円/現在)以下 生産数:79台 全長:4432mm 全幅:1722mm 全高:1321mm 最高速度:228km/h 0-97km/h加速:7.5秒 燃費:10.6km/L CO2排出量:-g/km 車両重量:1235kg パワートレイン:V型6気筒2935cc 自然吸気OHV 使用燃料:ガソリン 最高出力:150ps/5700rpm 最大トルク:23.7kg-m/3000rpm トランスミッション:5速マニュアル(後輪駆動)
チャーリー・カルダーウッド(執筆) ジョン・ブラッドショー(撮影) 中嶋健治(翻訳)