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「下村治は積極財政の支持者」論に覚える違和感

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東洋経済オンライン

 「財政は均衡であるということが、安定的な経済状態、安定的な均衡状態の根本の条件である」下村治『日本経済の節度』(東経選書 1981年) この記事の写真を見る ■下村氏は積極財政論者なのか  「下村治氏が積極財政論者?」 中野剛志氏による東洋経済オンラインへの寄稿『石橋湛山と下村治の慧眼に学ぶ「積極財政」論』(6月27日)および『コロナ危機に下村治が再評価されるべき理由』(7月2日)を読み、筆者は少なからず違和感を覚えた。  そこでは、下村氏が第2次世界大戦直後の時期や1970年代初頭に積極的な財政支出を主張したことが紹介されている。しかし、冒頭の引用にも述べたように、下村氏は第1次石油危機後には消費増税をしても財政均衡を目指すべきだと主張し、円高ショックが起きた後の拡張的な財政金融政策に対しては強く異論を唱えていた。

 いったいどちらの下村像が正しいのだろうか。以下では、下村氏の日本経済論から導出される財政観と下村氏の考え方を現代に応用する際に追加的に考慮すべきことの2点から中野氏の論稿の妥当性について述べたい。  筆者は一時期下村氏と職場(旧日本開発銀行)が重なっているが、実際にお会いしたのは、新人のときの一度きりである。しかし職場には下村氏の議論に影響を受けた人たちも多かった。特に今年3月に亡くなられた堀内行蔵氏(法政大学名誉教授)は、下村氏からの信頼も厚く、積極的に氏の考え方の紹介に努められ、それをもとに日本経済に対する自らの考え方を構築されていた。

 筆者の日本経済に対するアプローチは下村氏や堀内氏とは異なるものの、堀内氏とともに終戦直後から死の直前までの下村氏の著作を整理した人間から見ると、東洋経済オンラインにおける中野氏は下村氏の一面しか見ていないように、筆者には思える。  中野氏も紹介されているように、下村氏の日本経済論を貫く考え方は、一国の経済政策は、国内市場と国際収支の均衡を目指して運営されるべきというものである。市場均衡を考えない経済学者はいないが、下村氏の「均衡」概念は、マクロで需給が一致しない場合に市場価格が伸縮的に動くことで市場均衡を達成するようなプロセスを想定していない。

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